「今日の三号法廷」
1083文字・15min
前橋市立図書館で書いていて、ちょいと散歩することになった。
残暑が暑い。と言う表現は二重表現なのか。という思索に耽りながらふらりと前橋地方裁判所に入った。
一階の受付に行くと「今日はこの三件ですね」と言う気さくな感じで受付の人は三つほどお品書きを出してきた。みな軽い刑事事件だった。
「これ、三号法廷なら13時15分から13時30分までだよ。判決文を読むだけだから10分で終わるよ」
「裁判の傍聴は初めてなので、初心者にはいいですかね」
「そりゃあ。お勧めだよ。だって15分だよ。判決文読んで終わりさ」
「なるほど、ではその暴行事件を拝聴させて頂きます」
「隣の建物だから、そこの通路を真っ直ぐ行って突き当たりを右ね。その奥だよ」
「では、行ってきます」
僕は奥に歩き始める。すると、
「Kさん、今日は三号法廷への内側からは閉まってるのよ、こっちこっち」
こっちこっちと手をふる守衛のBさんは、外からまわりこむ道なりを僕に教えてくれた。
三号法廷の手前に自販機があってミネラルウォーターが百二十円で売っていた。図書館には自販機はなかったので、こんどの散歩ではここで水を買おうと思った。
最後列に座る。左端に弁護士見習いのような風体の若い男性がメモ帳を開いていた。その前の列の壁側におそらく被害者らしき家族が見える。最前列には強面のごま塩頭の老人とその妻らしき白髪の老婆が、でんと座る。被告席を見ると、どうも両親っぽい。顔やその皺も、似ている。
奥から裁判長が出てきた。
「手錠を外してください」
という声が聞こえると、
被告人を挟んだ警護官が立ち上がって、被告人のベルトと手錠を繋ぐ鎖をジャラジャラと外し始めた。鎖を外すのに少し時間がかかった。被告人のベルトは精神科の閉鎖病棟の拘禁器具に似ているな。と思った。
「はい、みなさん座ってください」
法廷は、ざっくばらんに始まった。
裁判長は、主文を読む。
暴行と脅迫罪で有罪、懲役二年、執行猶予四年に処す。
男被告人は妻である被害者に対し、トンカチの柄で殴りつけ、トンカチの鉄の部分を手のひらに軽く打つけ、脅し文句を並べた。被告人が妻に尋ねる男が「女である」という嘘にさらに激情を増した。背中を殴る蹴るを加えて脅しを強めた。
が、最終弁論にて、自分を反省し、子どもにも危害を加えてしまった悔恨の念を現し、反省の余地はある。今後は反省して生きるべし。
みたいな判決文だった。
妻に暴行を加えた被告人は上を向いて、涙を拭っていた様子だった。
僕は驚いた。
判決文に、判決文を書いた裁判長に愛情のようなものを感じてしまった。
僕には正義感などないが、裁判所をもっと見てみたい。興味が湧いた。
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