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800字日記/20221215thu/159「ジョゼと虎と魚たち」

御堂筋○子さんへ

ごぶさたです。
始まって一年半の文通は、まるで綱わたりみたいですが、繋がっていますね。^ ^

さて、ぼくは来年、九州から引っ越します。富山か長野か西東京になりそうです。
着いたらぼくから手紙を出します。ですからまたお待ちください。
去年の今ごろにいただいた手紙の、あなたが好きなASKAの「歌のなかには不自由がない」「言葉を引き上げようとすればするだけ形づくられていく」という所について。まる一年、考えていました。

自分の考えを説明しようとすると、論点が解釈(表象や音、韻律、嗜好など)の問題へ敷衍されます。どう伝えれば良いのか。腐心しました。
結局、素人のぼくがナンダカンダいったって… という結論に達しまして、

こういう曲ってさ、聴いているとなんだかさ、うきうきしてきちゃって、自然と身体が熱くなって、肩と腰をふりふりしたくなるんだよね。どう、ぜひ聴いてよ。こんど、一緒に踊ってみない? 

こういう返事を、ぼくはあなたへ書くべきなのかなと思ったんです。
音楽も小説も、音符や文字の並べ方によって、どうにでも変化するんだと思います。


「わ。橋だあ」
「わ。海だ」
 ジョゼは嬉しさで息をつまらせながら叫ぶ。(下肢麻痺であるジョゼは、小さい頃から医師に、脳性麻痺だとか、原因はわからないと片付けられて、もう二十五歳になる)
 ジョゼは向かい風をまともにくらったので息がつまり、自分では大声を出したつもりだが、声は出なくて風に呑まれてしまう。
「ジョゼ、窓、閉めんかい! また苦しィなるくせに」
 恒夫が言うので、ジョゼはあわてて、シートの横に並ぶボタンを押して窓ガラスを閉める。

今年もっとも感動した短編の冒頭です。たった二十八頁の中に宇宙のすべてがある。悪意、憎しみ、同情、憐憫、孤独、愛、ぬくもりなどが、そこに、まんま書かれてない。すべてがつながって、それらがじわじわと滲みでる。ぜひ読んで見て下さい。

「ジョゼと虎と魚たち」

(796文字)

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