「上陸者」ボツ原稿_fact.2闇の中の声(703文字)@プロット沼
fact.2 闇の中の声(703文字)
「で、きみたちはほんとうに見たのか? おのれのまなこで」
男のことばは闇のなかで響く。
暗闇に男のことばはとどまりつづけた。ぼくらは闇に同化しているはずだ。けど、男のことばはこの闇のどこかに浮遊したまま、ピンで磔(はりつけ)にされている。ふたりの少年はそんなふうにかんじて、からだをぶるっと顫(ふる)わせる。
ふたりの少年は息を殺して、つないだ手を、かたくさせる。おばけになろう。いつもやっているように。ふたりの少年は目をつぶっていつもの呪(まじな)いをする。おれたちはおばけだ。ぼくたちはおばけだ。それは、ふたりの少年がこの神殿を創りあげた日に作ったまじないだった。
チクタク。チクタク。
「で、きみたちはほんとうに見たのか? おのれの、その目で。浜に上がる男の影を」
暗闇でおばけになった少年らの耳に、男のことばは、響きわたる。
男の、闇でくり返すことばも奇妙だったが、男の発声も奇妙だった。
まず、ニンゲンの息づかいが感じられない。呼吸の出所は不明だ。闇にある胸にあいた穴からぜえぜえと息がきこえる。そんな風にきこえる。
チクタク。チクタク。
闇は少年たちを煽(あお)る。恐怖はかきたてられ増幅する。ふたりの少年は意志がくじけそうになる。ぼくたちの神殿をまもる闇が男の闇の声で音もたてずに崩(くず)れてゆく。こんどはくずれた闇の穴から得体の知れない生き物が手を伸ばしてきてぼくらの肉体に染(し)みこんでくる。ふたりはそんな恐怖におそわれる。
ごく。
ふたりの少年は、ぶるっと、からだをふるわせ、固唾(かたず)をのむ。
闇のなかで少年のひとりが背にさしたエアガンに手を伸ばす。
その時だった。
パッと部屋にライトが点いた。
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