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「竜胆〜」Vol.5【冒頭のボツ.Ver.1】

冬。

秋からずっと比叡の山奥にこもった土建バイトの煉瓦状になった給料袋をにぎりしめ、ようやく大晦日にアパートの二階までたどり着いた焼汰は、うす汚れたダウンジャケットとジーンズ姿のまま部屋に倒れこんだ。焼汰は冷凍マグロのように部屋でそのまま年を越した。三畳一間の部屋は比叡山の飯場の冷凍庫のなかよりも冷え切っていて、焼汰はばりばりと音を立てて瞼を開いた。ハッと腕時計のデジタルを見ると、三箇日と半日が過ぎていた。焼汰はこのまま貯めた金をもってどこか見知らぬ北の大地に逃げようと迷う。が思いなおし、四日間凍ったままにぎりしめていた給料袋を天窓の四隅にそれぞれ置いてある色の違う四つの耐火金庫の横の、四角い穴を開けた広辞苑のなかに大事におさめて、三度、数えなおした。土建バイトと合わせてきっちり三百万あった。そのなかから一万円札だけを財布に入れた。焼汰は部屋を見まわしたが去年とおなじく三畳の色褪せた畳以外、なにひとつなかった。

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