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隣の人

 隣の人に話しかけてみた。

 「あいつが悪いんですよ。僕はただ、ただ楽しく踊っていただけなんだ。それも酔ってなんかいない、まったくの素面で。これ以上素敵な場面は想像できませんよ。」

 「なのにあいつは、ただ独りになりたかっただけなはずなのに僕の女の子を連れ去ってしまった。独りになるには他人が必要だと分かっていたんでしょうね。でもだからってあの子じゃなきゃいけないわけではないでしょうに。」

 隣の人は特に表情を示さない。興味はもちろんないらしい。ただ彼の隣に座ってしまったがゆえに話しかけられてしまっただけなのだ。その後も彼の話は続く。

「あなたも想像してみてください。僕の気持ちを。僕がどんな気持ちで彼女の背中を見つめていたかを。その間もずっと踊っていた。音楽は止まないし、足は疲れていない。」

「そのうちにこれではダメだと気がついたんですよ。明日になったら忘れてしまうことはメモするでしょう? それと一緒で、踊っているだけじゃどうにもならないことがあるんです。」

彼の目は潤んでいる。話している方ではない。隣の人だ。なぜ?

そして彼の話は結論じみたことを隣の人に話す。

「結局ね、世の中の大半はあいつみたいなやつが占めているんでしょう。ようやく気が付きましたよ。僕はそんなの許すわけにはいかない。そうでしょう?だから、意味がなくても、どうにもならなくても、僕は踊るんですよ!」

そう言って彼は席を立ち、カフェの店内でタップダンスを踊り始めた。

〈カタッカタッカタッカタッカタタタタ、カタッカタッカタタタタッタカタカタカタッ、カタッカタッカタッカタッカタタタタカタッカタッカタッカタッカタタタタッ、カタッカタッカカタッカタッカカタッカタッカタッカタッカタタタタカタッ、カタッカタッカタッカタッカタタタタッカタッカタッカタッカタタタッカタッカタッカタタタタカタッカタッカタッカタッカタタタタ、カタッカタッカタタタタッタカタカタカタ、カタッカタッカタッカタタタタ、カタッカタッカタタタタッタカタカタカ〉

ダンスはなんともならないぐらいの腕前で、でもそれは結構ステキだった。

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