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ボビー・マンドリン

突き止めたぞ、お前の仲間、
ボビー・マンドリンが、
お前を脱獄させようと計画していたのを。
そのグレン・フォード気取りは、
コロラドから来たアホで、
お前の酷い作り話を信じきっていた。
その男の口から流れてくる歌も、
お前をすっかり陶酔させ、
この鎖と鉄格子と後悔しかない
ネズミの寝ぐらから、お前を
連れ出してくれると信じ込ませていた。
一枚のステーキも、一杯のエールもなく、
一日中、爪で壁を引っ掻き回る生活。
眠れず、
泣くこともできず、
お前は牢獄の中にいる。

お前がボビー・マンドリンと出会ったのは、
さびれた宿屋の小さなサルーン。
彼は、年季の入ったマンドリン
(漁師の銛でも切れない
黄金に輝く絃が張ってある)で、
美しい旋律を奏でながら入って来た。
その町は、言語の曖昧さによって、
意味とリズムとに引き裂かれ、
詩人たちを、ジョーン・クロフォードと
マーセデス・マッケンブリッジのように、
対立させていた。
けれど彼がペギー・リーっぽく歌い出すと、
その音色に、
詩人たちは魅了された。
それはけして色褪せない音だった、
お前が牢獄にいる、今もなお。

ところでお前ら詩を書く人種は、
「自己愛の囚人」であり、
扱うテーマはすべて自分の中身について。
いくら景色を見たり、
ニュースを聞いても、
やることといったら批判めいた自己紹介。
お前の分厚い眼鏡をかけた科学者面が、
ケースの中のモルモットを分析する。
そのお前に似た小動物が、
お前に噛みつく場面を、
トレースして生み出した作品、それが
失敗作とみなされれば、
細部に宿った神など無視される。
詩人とは、
死にゆく囚人、
実際、お前は今牢獄の中だ。

さて、ボビー・マンドリンは、
お前が入っている牢獄についての
情報を集めて回る。
村の花嫁が食事と助言を与える、
「作戦に必要なのは知識と、
参照にする本とペンだけ」と。
ボビーは早撃ちで、タフな男でもあったが、
お前はそれでも用意が足りないと嘆く。
なぜならお前は詰めが甘く、
物語をハッピーエンドで終える才能が、
自分にはないと予感しているからだ。
「創作」は刑務所に似ているーー
壁の内か外かで構築された世界。
間違った脚韻と、
膨大な時間が、
お前を牢獄に閉じ込めているのだ。

その夜がやって来た。
雲に隠れた月、
ボビー・マンドリンが計画を実行に移した夜。
お前は涙ながらに振り返った、
自身の失われた二十年を。
そして疑うことなくヒーローを待った。
ボビーが自らの足で塀の上に立ったその時、
お前の煙草の火が彼を照らし出し、看守が発砲、
銃声が届くーー
お前の詰めの甘さと才能とに。
彼は死に、お前の想像力は処刑される。
わかるだろ、詩作は労役なのだーー
経験や過去を詩にするという行為は、
まるで自分の尻尾を追いかける犬、
自身のケツの穴を鑑賞する映画評論家。
そして永遠に、お前は牢獄の中なのだ。

そうでないのなら、やめてしまえ。

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