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「いつかまた会える」

話すことは何もない、
君はただ歩くだけだ、
手袋のほつれた部分を気にしながらね。
君は永遠に変わらない、
身長と、下の名前だけはーー
僕たちはただ愛を見失ったんだ。
君はどんどんと歩いてゆく、
宝石屋を過ぎ、花屋を過ぎ、
僕は教会の前まで君を追いかける、
まるで間抜けな、
ジョン・“スコティ”・ファーガソンのように。
君の口が動くんだったら、
僕にやめるように言って欲しかったよ、
今でも君の肌に触れていたいし、
どこまでが罪なのかわからなかったのに、
君は卑怯にも言わないんだ、
僕を『荒地』におっぽり出す、
T・S・エリオット風な、とどめの一言を。
君のは優しさじゃない、ただの見せかけだよ、
ごまかさないでくれ、
「いつかまた会える」だなんて。

君はあの男の車に乗り込み、
僕はバーへと引き返し、
暇人が買い占めたビールを奪い返すわけだが、
かつての友人たちは僕が死んだと触れ回り、
下ネタ好きの婦人たちもベッドを卒業していて、
僕のバーテン相手の独り言といったら、
君の「冷静な」判断についての愚痴ばかり。
そう、いつだって君は、
君の立場からは正しい人間だ、
でも完璧ってわけじゃない、事実、
欲情に支配されすぎた、
浮ついた「一夜」があったのだから。
それでも君がこのまま事を済ますつもりなら、
僕は何も言わず、この地位をくれてやるさ、
その男にーー君の中に入った新しい男に。
君の並木道ですれ違った、その痩せこけた男に。
君が運命の勝者さ、
好きなときに門を閉じればいい、
相手から財産でも、酸素でもかっさらった後でね。
茶化さないでくれよ、
「いつかまた会える」だなんて。

僕らはお互いに誠実だったーー
君は僕の靴をほめてくれたし、
僕は君の猫を可愛がったし。
お互いのママとも喋ったし、
お互いのドラムも叩き合った、
お別れのときだって、ほら、話を遮らなかったろ?
このまま別々になるんなら、
僕は僕の道を行くよ、
けれど、どうして君はみんなの心の中に、
「良い人」で居続けようとするんだね?
「すべて君の望んだことだ」、
それ以外、どの役者がどんなセリフを言える?
お決まりのドラマの、お決まりのシーンだよ、
そのお決まりの結末は、
君の短いスカートに隠されたがね。
それに、僕は君の持ち物じゃない、
ジョー・バイデンの隣のカマラ・ハリスじゃない、
劇場に出るときだけの相方なんてごめんだよ。
やめてくれないか、
「いつかまた会える」だなんて。

君は落とし込むのに最適な、
思い出を手に入れたってわけだ、
でもよく見てごらん、それはただのゴミ置き場だ。
都合の良いスナップ写真と、
都合の良いコメントの数々、
その中で僕がやらされる物分かりの良い紳士ーー
そいつはどんなシャツに、
どんなスニーカーを合わせるんだろうな!
君のプロットは一人称で語るには、
時間や空間を捻じ曲げる必要はあったけど、
その主人公の変化を描きたいんだったら、
修飾語を削り、事実だけを書けばよかったのに。
そうさ、僕らが苦心して書き上げた結末には、
どこにもロマンスなんてない、
君のジュディ・ガーランドは歌が下手だし、
僕のミッキー・ルーニーはダンスを踊れない。
ーーいつか運命が膨張し、
君の手からはみ出したら、
手紙をくれよ、君のペンで書いた本物をね。
ただし、こうは書かないでくれ、
「いつかまた会える」だなんて。

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