推し、燃ゆ

宇佐見りんさん
2021.3.19

「愚問だった。理由なんてあるはずがない。存在が好きだから、顔、踊り、歌、口調、性格、身のこなし、推しにまつわる諸々が好きになってくる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、の逆だ。その坊主を好きになれば、着ている袈裟の糸のほつれまでいとおしくなってくる。そういうもんだと思う。」
p29より

水の中で息継ぎしたいけどできない、そんな感覚が最初から最後まで続いてる、そういう感じだった。
「推し」の意味と「燃える」の意味。何となく分かったような分からないような。
「推し」とひとことで言っても、それぞれ推し方は違っていてあたりまえ。あかりちゃんにとって推しって命と同等な感じがする。だから、「燃えた=死」を感じた。SNSで炎上の意味での最初の書き出しだと思ってたけど、「燃える」ってそれだけじゃないよね。どっちかっていうと燃え尽きたってニュアンスが合ってるかな?あかりちゃんも推しも命も色々燃えて「終わった」って感じがすごいした。
燃える、から派生して「あかりちゃん」=赤、「推し」=青もどことなく火を連想させる色だなって思った。火って何となくオレンジ(まあここでは赤?)を連想するけど、青もあるよなと思って検索。そしたら、温度順に赤、黄、白、青の順に温度が高くなっているらしい。これって偶然?推しは一見冷めている真っ青をイメージしてたけど、誰よりも熱い思いを抱えてる人だったんじゃないか。あかちゃんって揶揄されてた時、そのための「あかりちゃん」なんだって思ったけど、どうなんだろう。どっちにしても色が結構鮮烈なイメージを与える作品だなと思った。

トイレで出会った目元に青いアイシャドウをした女性。マンションで洗濯物のシャツを取り込んでた女性。
推しに殴られた女性。
誰が真幸くんの奥さんなのかー

それとも指輪が結婚ってつなげること自体、違っているのか

先生、勉強、姉、母、父、バイト、就活、生きていくこと、全てに対してあかりちゃんは燃え尽きたのかもしれない。124p最後に出てくる「肉の色」ってどんな色だろう。結構終始肉っていう単語が出てきて気になった。人間を肉って言ってる。推しも引退することでアイドルから人になったって表現している。もちろんこれには一般人って意味も含まれてるだろうけど、あかりちゃんにとっては芸能界にいる推しは「人」(=肉の塊)ではなかったのかもなって思った。

なんで殴ったのかー
真幸くんが人を殴った理由。これがこの作品最大の謎にして、宇佐見さんが1番伝えたかった思いを込めているように思う。なんだろうか。はっきりと答えは出ないけど、考え続けたい。友達が教えてくれた伊集院さんの「考え続けること」を思い出した。ことばでは通じないと思ったのか。自分の考えが身近の誰にも通用しない当て付け?真幸くんの核心をつく何かを言われたのか。それとも衝動?分からない。けど分かりたい。

投票制度についてもう一回考えさせられた。最近伊藤万理華さんの「はじまりか、」を聞いてアイドルの投票制度を考えていた。真幸くんもこれに疑問を抱いていたよう。AKBもそうだし、まざま座も同様。「誰かに評価される」ことが最近増えているような気がする。
インスタのストーリー、投稿、フォロワー数、Twitterの言葉選びのセンス、LINEのスタンプや絵文字の使い方。こういうの全部誰かが「ジャッチ」している感じがする。自分もしている気がする。過剰に誰かを誰かが評価する。YouTubeもそう。

「未来永劫、あたしの推しは上野真幸だけだった。彼だけがあたしを動かし、あたしに呼び掛け、あたしを許してくれる。」
p36より

そんなジャッチばかりの世界で、あかりちゃんにとって真幸くんだけが自分の存在を許してくれる存在だったのかもしれない。
あかりちゃんはお骨を拾って這いつくばる四足歩行で今度は何色の世界を見ているんだろう。


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