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硝子の薔薇 10
それからしばらく、清香ちゃんとは会えず、そしてLINEも来なかった。一度だけ「今何してる?」とか送ったけど既読も付かないままだ。最後のあのぎこちない雰囲気といい、なにかあったんじゃという心配もあっただけに何をしてもそわそわしてしまい、落ち着かない。
鈴子ちゃんとは相変わらずだけど、「あれからあの清香ちゃんどうしてんの?」とかそういう話は一切出なかった。私からしてみようかなとも思ったりしたが、なぜか踏み入れては行けない領域に感じてしまって、結局そこには何も触れなかった。
8月のお盆を過ぎて、もう夏休みも終わりが近づいた頃のこと。夕方勉強をしていると、スマホが鳴った。電話だ。誰からだろうと思って見ると、清香ちゃんだった。私は驚いて思わずスマホを落としてしまった。
今日まで全く連絡がなかった。それがいきなり電話なんて。どうしたんだろう。そう思い、私は一度深呼吸をして電話を取った。
「もしもし、清香ちゃん?」
しかし電話の向こうからは風の音と、浅い息づかいしか聞こえてこなかった。清香ちゃんは何も言葉を発さない。ただ、浅く息をしているだけだ。
「どうしたの?」
しかし、彼女は何も答えない。
でも、何かすごく彼女にとって嫌なことが起こってるんじゃないかと思った。具体的にはわからないし、違うかもしれないけど、ただ事じゃないことだけはなんとなく伝わってきた。
「どこにいる?私そっちに行くよ」
やはり、彼女は答えない。私は、
「ごめん、いったん切る」
と言って電話を切った。そして私は急いで部屋を出た。今日はお母さんも遅くまで仕事でいないから、何も気にせずにそのまま家を出て、ある場所へ走った。
*
私が走ってきたのは、東高の説明会の後に連れてきてもらった公園だった。確信はないけれど、この場所のどこかにいる気がしたのだ。
辺りを見回すと、公園の一等景色が良いところに清香ちゃんがたたずんでいるのが見えた。
「清香ちゃん!」
私が大声で名前を呼ぶと、彼女は驚いてこちらを見た。酷くおびえた顔をしている。
私はまた走って彼女の隣へ行き、
「電話、切っちゃってごめん・・・・・・。どうしたの・・・って・・・」
私は彼女の左腕を見た。赤い血がポタポタと垂れている。
「な、えっ、え、それは・・・どうしたの?けが?それとも誰に切られたの?」
清香ちゃんは泣きながら震えていた。そして、小さな声で、
「え、英奈が・・・家に来たの・・・」
英奈とは、長谷川さんのことだ。夏休み前日に清香ちゃんに酷いことを言っていたあの子だ。
「長谷川さん?なんで?」
「わかんない・・・。わかんないけど・・・、あんたなんか、誰にも相手にされずに死ねばいいとか、そんな風に言われて・・・。お母さんたちにまでそれを見られて、それで、全部お前が悪いって言われて・・・・・・」
「えっ、えっ、えっ、待って待って。それで、その腕は?」
「私が切ったの。リスカしたの。もう、何もかも嫌で・・・」
夕焼けに照らされる清香ちゃんの泣き顔は、見るこちらまで辛くなった。そんな友達ともいえない凶暴な女が凸してくるだけでも相当怖いのに、親にまでそんな風に言われるなんて・・・。それはもう嫌になるのもわかる。
「とりあえず、この腕どうにかしよう。このままだと清香ちゃん死んじゃう」
私が清香ちゃんの腕をつかむと、彼女はその腕を振り払い、
「死んだっていいもん!もうこんな辛い思いばっかりしたくない!誰も私なんか見てないし必要と思ってない!それなら、それならもう生きてる意味なんかない!!」
それは違うよ、と言おうとしたが彼女はそう言って気を失ってしまった。
「さ、清香ちゃん?」
見ると顔が青ざめている。このままじゃ本当に死んでしまう。彼女は死にたいと言っていたけれど、私としては死んでもらったら困る。せっかく新しくできた友達なのに。
救急車を呼ぼうと、スマホを取るとまたぱっと手を捕まれた。
驚いて振り向くと、
「す、鈴子ちゃん・・・?」
「あたしがこの背負ってくから、美晴も手伝って」
鈴子ちゃんは慣れた手つきで清香ちゃんの腕にぎゅっとタオルを巻いて、そしておんぶをした。
「う、うん・・・」
「ほら、行くよ。てゆーかこの子軽いな」
そう言いながら鈴子ちゃんは歩き始めた。私も慌ててその後を追う。
でも、鈴子ちゃんが何で来てくれたんだろう・・・。
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