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私の恋は、空を飛んでいく


 私の恋愛は、大抵が片思いで終わっていった。

 本当に好きな人とは、なぜか付き合えなかった。気持ちとしては誰にも負けない自信があったはずなのに、好きな人は私ではない他の女性と結ばれていった。

 最初のうちはめげずにいたけれど、だんだん私に定められた運命というものがわかってきて特に恋愛に対して期待をしなくなった。恋人がいる友人を羨ましく思いながらも、自分には縁遠い話になったなぁと一歩引いていた。

 そんな自分が、誰かをまた好きになった。知らず知らずのうちにその人のことを考えるようになり、そしてふと自分がその人に対して恋心を抱いていることに気がついた。不思議なもので、それに気づいた途端どんどん相手への想いは募るばかりで、毎日平静は装っていても身体が熱っていくのを感じていた。1日のほとんどはその人のことで頭がいっぱいだった。

 学生の頃みたいな恋愛してんな、とふと思った。こんなにずっと相手のことを考えているなんて、もはや執着だ。わかっていても、想いは雪のように積もっていくばかりだった。

 でも、彼は私には全く興味のない様子だった。一度勇気を出してデートの誘いをしても、既読無視をされた。そしてその後何を送っても、まるで私からのLINEなど何も見ていないかのように、華麗にスルーをしていった。


 最初のうちは本当に悲しくて、かつ職場などでたまたま会った時などは普通の態度をとってくることが訳がわからなくて、腹立たしかった。なぜなのか分からなかった。何をした覚えもない。たった1回のデートのお誘いだけでこうなってしまうなんて。本当に意味がわからなかった。そして、職場でも会うどころか姿を見かけることすらもなくなっていった。

 どうして?どうして私のこと無視するの?私のことなんかはなから嫌いだったってこと?前までそうじゃなかったのに。こんなことならデートの誘いなんかしなきゃよかった。そもそも出会いたくもなかった。こんなにも誠意がないなんて。酷すぎる。酷すぎる。酷すぎる…………。



 ふと、夜中に目が覚めた。少し強い尿意を覚える中、

(私、本当に求めすぎてるな)

 と、自分が彼に対して抱いていた恋愛があまりにも独りよがりだったことに気がついた。

 どのようなきっかけだったのかはわからない。だけど、それに気がついた途端、今まで抱いていた彼に対する疑念だったり、責める気持ちがさあっと消えて、清々しい気持ちになった。きっと彼への諦めがつき始めていることの表れかもしれないが、それでも求め過ぎは良くないって周りの恋愛見てて思ってたじゃないかと、思い出すことができた。

 私の恋は、蝶のように空を駆けていくこととなった。私は踏ん切りが付きにくい人間なので、なかなか彼に対する恋慕は消えないだろうがもう彼に対して疑念を抱くことはないだろうとはっきり思える。

 結果的に、私の恋はおそらく実らず終わることとなるだろう。しかも想いを伝えないまま。デートの一回も行かないまま。彼の好きな食べ物や趣味を知らないまま。1番燻りそうな終わり方なのかもしれないけれど、私の心は今晴れ渡っている。ある意味こんな素敵な経験をさせてくれた彼には感謝をすべきかもしれない。既読無視をする癖は直した方がいいとは思うが。

 どんなに結ばれないと気がついても、どんなに私が恋愛に向いていないとわかっていても。性懲りも無く私はきっとまた誰かに恋をするのかもしれない。最後はなかなか辛かったけれど、片思いというのは楽しいものだった。毎日が楽しかった。彼の何気ない仕草や優しさに心を躍らせていた。


 私の恋心は、叶えようとする前に終わってしまった恋心は。どこまで飛ぶことができるのだろう。それはきっとどんな花よりも美しく、また儚い存在。またその蝶と出会うその日まで、もう少し綺麗になっていよう。きっとそうなれば、あの人は私に振り向いてくれるかもしれないから。

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