on the beach
「友達になってくれませんか?」
男は声をかけた。
女二人は顔を見合わせたが、その屈託のない笑顔に警戒心はすぐ消え失せた。
男はもうすぐ沖縄からこの地へ転勤するらしく、現在は前研修で短期間ここに居るらしい。
親しい友達も海も、まだここにはないのだと言う。
「休みなんで仕事の勉強をしてたんですけど、こんな良い天気だから、もう居ても立っても居られなくて海に来ちゃいましたよね。」
男の足元を見ると、ビジネスホテルの名前の入ったスリッパは砂にまみれている。
ホテルのスリッパでそのまま海に出てしまうところを見ると、なんだか悪いやつじゃない気がしてくる。
なんやかんやと三人で身の上話をしていると、いつのまにか時間は経ち、波が私たちの方へと近づくようになった。
身の上話での男はセブンティーンで飛行機の整備士をしていて、ミスチルが好きらしい。いろいろはちゃめちゃだが、その話をすべて信じたかった私たちは、そこで男に別れを告げた。
男は「俺はまだ居るんで。」
そう男が寝転んだ砂浜のすぐ先には、もう波が押し寄せてきていた。
「波にさらわれて沖縄に帰りますわ。」
「無事に着くことを祈ってますね。」
私たちはそう告げて、帰路の方へと歩いていった。
何度か後ろを振り返ったが、男は動くそぶりもなく、ただただ波が彼を飲み込むのを、誰一人疑問に思わなかった。
その時、彼は本当に沖縄生まれのミスチル好きの飛行機整備士セブンティーンなのだと確信した。