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世界一タフな五輪選考会

 陸上の米国オリンピック選考会が始まった。
 初日、男子砲丸投予選。リオ五輪でこの種目金メダルのライアン・クルーザーが22m92のビッグスローで予選トップ通過。
 そのスロー、決勝にとっておけばいいのに・・・というのは、外野の余計なお世話で完全な杞憂に終わった。
 クルーザーは決勝でも22m61、22m55、22m73とコンスタントに22m超えを連発。3投目を終わって五輪切符をほぼ確実にした。

「さぁ、クルーザーの4投目です」

 スタジアムアナウンサーの知らせに、観客が一斉に砲丸投に目を向ける。

 今日の注目種目は女子100m予選よりも、男子砲丸投なのだ。クルーザーが観客に手拍子を求める。
 4投目は前の投てきよりも少し弾道が低かった。しかし最後にぐっと距離を伸ばし、砲丸投のフィールドのギリギリのところに落ちる。
 拳を握り、ガッツポーズしながら叫んだクルーザーの声は、観客の大歓声にかき消された。
「世界記録かわからなかったけれど、いい記録だとは思った」

 23m37。

 これまでの世界記録(23m11)を25cmも更新するビッグスローだった。

「まだ世界記録保持者と言われてもピンとこない。室内の世界新とはまた一味違う。今回の投てきはパーフェクトには程遠いものだから、まだまだ投げるよ」と五輪切符と世界記録の両方を手にしたクルーザーは満面の笑顔。
 東京行きの切符にスタンプを押したクルーザー、コバック、オターダール。

 世界一厳しい選考会で涙にくれたのは、21m92を投げて3位に入ったオターダールから、わずか3cmで4位のリオ五輪代表のダレル・ヒル。
 予選から自己記録に及ばない20m43の6位通過。決勝でもなかなか思うようなスローができなかった。5投目に21m89で3位に上がったものの、直後に21m92を投げたオターダールに逆転される。
 6投目はファール。ヒルの五輪への挑戦は幕を閉じた。
 椅子に座り込んでタオルをかぶり、しばらく呆然とするヒル。

 3cm。
 たったの3cm。

 五輪が延期になり、どの選手もメンタル的に、そして資金的にも厳しい生活を強いられた。五輪という目標のために過ごしてきた。
 でも切符は3枚。
 3枚だけの切符を、命をかけて戦う。
 米国の五輪選考会は、世界一タフで世界一熱い。そして、世界一残酷だ。

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