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ファイナル前日、コールマンは選手たちが帰った後も一人で黙々と練習していた

 ダイヤモンドリーグファイナル、男子100m、ドーハ世界陸上金メダルのコールマンが今季世界最高の9秒83で制した。

 コールマンはドーハ世界陸上後に競技会外の抜き打ちドーピング検査を受けなかった(指定した場所にいなかった)ため資格停止になり、東京五輪には出場できなかった。
 昨年のオレゴン世界陸上はワイルドカードで出場したものの、精彩のない走りで6位、今年のブダペスト世界陸上も5位でメダルに届かなかった。

 プレッシャーの少ないレースではフォームの乱れもなく、とてもいいレースをするのにメダルがかると途端に崩れてしまう。スタートで飛び出して頭一つ抜き出ても、他の選手の追い上げを察すると体が硬直し、バタバタした走りになる。

 もったいない。

 そんなレースが続いていた。
 ブダペスト世界陸上の選考会だった全米選手権でも後半崩れて0秒01差の9秒96で2位だった。代表権を掴んだものの、不安が残るレース展開だった。

「後半バタバタだったね」
 そう言うと、泣きそうな表情でこう言った。
「代表になったことを褒めて」
 ここまでの道のりは平坦ではなかったし、2017年から4大会連続で代表入りするのは凄いことだ。
 でも、もっとできるはず。
 それは本人も痛いほどわかっていた。

 ファイナル前日、多くの選手が軽めの練習で切り上げる中、コールマンは誰もいなくなったスタジアムで何度も何度もスタート練習、加速走を行っていた。
 アスレチックトレーナーに動画を撮ってもらい、確認し、それを繰り返していた。

「俺の練習、見てて楽しい?」
 そう話しかけてきたので、笑いながらこう答えた。
「クリスチャン公認のパパラッチだから、最後までいるよ」
 ニヤリと笑って、またスタートに着く。 

 太陽が少しずつ傾き、競技場にも影の部分が多くなる。
 スタジアムにいる選手はコールマンだけだ。
 5本、6本。前日練習としては多すぎる本数を重ねる。
 
 そこには彼の勝利への飢えを感じた。
 
 「勝ちたいんだな」
 
 ヒシヒシと伝わってきた。

 今日の100m。4レーンのコールマンはスタートで飛び出す。ライルズが追い上げ、コールマンが必死に逃げる。
 9秒83。
 最後の試合で今季最高記録を叩き出した。
 
 勝利が決まると、コールマンはガッツポーズをしながら雄叫びを上げた。

 今日の勝利は悲願の五輪出場に向けて、大きな一歩になったはずだ。勝利の自信を来季にどう繋げるのか、果たして繋げられるのか。コールマンの挑戦は続いていく。
 
 

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