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脚本 勝手に終わりにしてんじゃねーよ

 こんばんは、山野莉緒です。

 今日は「勝手に終わりにしてんじゃねーよ」を公開します。
 何が台詞で何がアドリブだったのか、真偽を明らかにするときが来ました。全部台詞です。笑

 さやちゃんとの最後の舞台になりました。その後「ネモフィーラ」を引き継いでくれた、まやちゃん、ジョニーくんとの思い出の公演でもあります。

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 フライヤー好評でうれしかったです。ブラジャーかぶってる男は演者じゃなくてスタッフです。
 背景はアンリ・カミーユ・ダンジェの「汝ら、互いに愛し合うべし」。宗教画はパブリックドメインなのでオススメです。なぜ宗教画なのか、誰も気づいてなかったと思いますが😇
 小雨観覧車の本公演すべてに出演してくれて、この作品では阿弥陀如来を演じてくれたまやちゃんが、思い出を綴ってくれています。こちらもぜひ!


 演劇部の卒業公演と、劇団浅葱色の憂色のテーブル、そしてこの作品は、自分の中ではちょっと色がちがって、何かなって考えると一番大きいのは、みんなにあーだこーだ言われながら書いたことかなと思います。
 直しが出て落ち込むわたしを寄ってたかって笑い者にするみんな。お返しに台詞めちゃくちゃ増やしました。

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 先に人数や小屋が決まっていたり、さやちゃんにこんな役やりたいって言われたりして、それから話を考えて、これはできない、でも言いたいって、すごく苦戦しました。
 ふだんは自分のために書いているから、ひとりとひとり(わたしとわたし)が出会ってぽつぽつ会話する(自問自答する)ような話が多いんだと思います。これはさやちゃんや誰か、他人を特別思って書いたので、そりゃ難しかったです。べらべら喋ってます。今読むと恥ずかしくて結構直しちゃったけど、いい意味できっともう書けないので、そういうところは思い切って残しました。いつもはト書きも長々書くのが、前置きもめんどくさいって感じでほとんど台詞なので、25000字の追撃LINEです。既読つけてください。


 ここからちょっとよくない話をします。ごめんなさい。
 ド頭、電車のシーンは開場と同時に始まります。さやちゃんにアナウンスを録音しに行ってもらって、開演までの30分、一駅通過するごとに、俳優が乗り込んでくる演出にしました。舞台上でスマホいじりながら、見てたのは座組のグループLINEです。急ブレーキがかかって、みんなでよろける稽古が楽しかったです。
 友人を亡くした幼馴染が観に来てくれて、事故が起きた瞬間の空気を見て、気持ち悪くなっちゃったって言われて謝りました。いっぱい泣いて、ちょっと笑って、最後元気出たって言ってもらえたからよかったです。

 死なないでって言えるのは、その先の人生に責任を取れる人だけです。あんたのせいで今も生きていて、あんたのせいで今も辛いって責められる覚悟がある人だけ。そんな風に思わせない人だけ。面倒見切れないなら猫なんて拾うべきじゃないの。

 でも、もし今日を越えられたら、明日何かに出会うかもしれない。だから今日は、一緒においしいごはんを食べて、お酒飲んで、楽しい話して、面白い映画でも見て。
 時間稼ぎだよ。きれいごとだよ、現実逃避だよ、何も変わってない。ごめんね。でもいつかきっとそんな日が来るから、それまで一緒にいるから、暇つぶしならいくらでも付き合うから、勝手に行かないで、ここにいて。
 てか置いてくなよ!!!! ずる!!!!

 オチは賛否が分かれそうですが、このひとつ前の公演で照明をやってくれた渡辺くんが「前半部分、特にOPのダンスとか正直蛇足だなーと思って観てたけど、全部伏線だったのかと震えました」って感想くれて正直すぎてウケました。旗揚げに出てくれたはりねずみのパジャマの園田さんの「ずっと関係ないことで怒られてる感じ」もウケた。莉緒ちゃんの劇は毎回ぐちゃぐちゃになるからしんどいとも言ってくれたので、何か刺さったならよかったです。その主宰の並木さんはオチでゲラゲラ笑ってました。ほんとに書いてよかったです。

 わたしは人生、どれだけ面白いもの見尽くせるかのタイムアタックだと思ってるので、最後まで退屈させないから、こっちについてきな。足抜けは許さないけどな。


 明日からまたがんばろうって思ってもらえたらうれしいです。
 そのあと何日とか、何か月とか、何年とか、できたら一生、ちょっと楽しくなるような何かになっていたら、最高です。



ご挨拶(当日パンフレットより)

 本日は、第2回本公演「勝手に終わりにしてんじゃねーよ」にご来場いただき、誠にありがとうございます。

 稽古に何回遅刻したかわかりません。脚本の締切も全然守れませんでした。お金のことは副主宰に任せきりです。Twitterの鍵垢が増えました。煙草がやめられません。池袋の喫煙所で一人で泣きました。バイトをバックレました。ガス止まりました。カードも止まりました。彼氏に長文LINE送り付けました。既読無視されました。骨折りました。
 本当にだめな人間なんですけど、電車に乗ってて誰かにこんなにだめだとバレたことはありません。こいつだめだなって思ったこともありません。
 小さい頃食べものを残すと、食べたくても食べられない人もいるんだからって言われたじゃないですか、それはそうなんですけど、大人になって、もう他人の痛みなんて当たり前に想像できるようになったのに、まだその言葉を引きずって、辛いのは自分だけじゃないからって、いらない想像して、いらない気利かせて、いらない我慢をしてる人がいるなって思います。あなたはもう、お母さんが望んだ通りの優しい子に育ってます。
 あなただけがだめなわけでもないし、あなただけが優しいわけでもないです。でも黙って電車に乗ってるだけじゃ気がつけないから、話がしたい。
 優しい人はたくさんいるけど、優しいだけの人はいないから、誰かの優しさを感じたら、それはあえて優しくしてもらっているってことなんだと思います。どうしてそうしてもらえるのかっていったら、あなたにそれだけの魅力があるからです。ねっ。

 時間が移ろう以上、立ち止まっていたら流されます。何もしないことは現状維持にはならなくて、ただ同じ場所にいるのにも、毎日一歩、二歩って歩かなきゃだめなんです。何もできなかったわけじゃない。変わらない今日を生きただけで、あなたは十分がんばった。大丈夫。
 明日もちょっとだけがんばれますように。お楽しみください。

(演劇ユニット小雨観覧車 山野莉緒)



「勝手に終わりにしてんじゃねーよ」 山野莉緒

【登場人物】

雪村かえで(ゆきむら・かえで)
三島和佳(みしま・わか)

小野寺春太(おのでら・しゅんた)
千田浩介(せんだ・こうすけ)
伊藤珠季(いとう・たまき)
金森愛(かなもり・あい)
大竹加奈子(おおたけ・かなこ)

阿弥陀如来
観世音菩薩
勢至菩薩

沖田総司

おその



一、電車《下界》

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 午前七時台の西武池袋線、上り電車。スーツや制服に身を包み、一日を始めようとする活きのいい人間ばかり、大量に詰め込まれている。
 列車、急ブレーキをかける。金属が激しく擦れ合う音。激しく揺さぶられ人々も悲鳴を上げる。停車後、一瞬の沈黙。車体のあちこちから、耳をつんざくような警報が鳴り出す。

車掌 「ただ今、当列車にて人身事故が発生しました。関係各所へ連絡を行いました。ご迷惑をおかけいたしますが、しばらくお待ちください」

 一時は不安げに耳を澄ましていたはずの人々が、一斉に勝手なことを喚き始める。

莉緒 「やだ、轢いちゃったってこと?」
山岸 「また人身かよ」

 通学途中にこの事故に居合わせたかえでは、膝の上で参考書を握りしめ、沈黙を守っていた。警報音の合間を飛び交う呑気な台詞を、くだらないと思っていると、そこに一人分の、切羽詰まった息遣いが聞こえてきた。顔を上げると、肩で息をしながら縋るように吊皮を掴んでいる女性がいる。

和佳 「またって何」

 息も絶え絶えに呟いた台詞は、かえでにしか聞こえない。

葉月 「体育公欠できんじゃん」
まや 「うわラッキー」
髙木 「おはようございます、髙木です。すいません、乗ってた電車が人身で停まってしまいまして。西武線です」
陽歌 「どのくらい停まるの?」
さき 「西武来ない方がいいよって呟いとくわ」

 かえで、膝の荷物を抱え、中途半端に腰を上げて、声をかける。

かえで 「座りますか」
和佳 「あ、いや」

 間。視線が集まる。

かえで 「あ‥‥」
和佳 「‥‥すいません」

 ふたり、人込みの中で身を縮めてすれ違い、和佳、半ば転ぶようにして座席に収まる。先頭の方でざわめき声がして、人々の視線はそちらに逸れていく。

さき 「何か見えるらしいよ」
陽歌 「え、生きてんの?」
さき 「わかんない。血まみれの肉っぽいのが見えるって」
陽歌 「やだ、やめなさいよ」
車掌 「乗客の皆様にご案内いたします。ただ今、乗客の皆様を降車し、池袋駅まで案内する手筈をしておりますが、消防からストップがかかっております。今しばらくお待ちください」
葉月 「えー、歩くってこと?」
まや 「あの線路沿い歩くやつじゃないの」
葉月 「うわ、あれやれんだ」
髙木 「歩いてって、何分かかんだよ」

 息が上がったままの和佳を見て、かえではもう一度声をかける。

かえで 「お水いりますか」
和佳 「あ、いや」
かえで 「ちょっと飲んじゃってるんですけど」

 控え目に差し出すと、和佳は会釈をして受け取る。一口飲んで息をつき、かえでを見上げる。

和佳 「ありがとう」
かえで 「あ、大丈夫ですそれ。もう、あ、あげます」
和佳 「‥‥ありがとう」

 和佳、再びペットボトルに口をつけ、気の済むまで飲む。

まや 「人身起きるとさ、駅員さんたちがばらばらになった肉拾って集めんだって」
葉月 「えー、やだー。やりたくない」
まや 「で、並べて、全身揃うまで動かせないんだって、電車。挟まってるかもしれないから」
葉月 「あー、それでそんなにかかるんだ」
まや 「そうそう」

 列車の外で怒号のように飛び交う声が、窓越しに聞こえてくる。

車掌 「乗客の皆様にご案内いたします。ただ今より、皆様を池駅までご案内いたします。先頭車両から順に降車のご案内をさせていただきます。降車の際は係員の指示に従い、押し合ったり、駆け出したりといった行為はご遠慮ください。また、お忘れ物のないようお気をつけください。本日はお急ぎのところご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」

 人々、池袋駅を目指し、歩き出す。



二、線路《下界》

 千田、小野寺、登場。地面に横たわる女性を挟んで立つ。

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千田 「いやかかったな!」
小野寺 「はい」
千田 「初日から災難だったね」
小野寺 「こんなにかかるとは。人もすごかったですし」
千田 「ね。まじ勘弁してほしいよな」
小野寺 「そうですね」
千田 「まー、こういう日もあるね。報告入れれば、問題ないから」
小野寺 「はい」
千田 「じゃあ、まー、あの、ようやくって感じだけど、仕事教えていくね」
小野寺 「はい。よろしくお願いします」
千田 「うん。小野寺くんはあれよね、運送は経験あるんだよね」
小野寺 「一応、昔、酒屋でバイトしてましたけど」
千田 「おー」
小野寺 「でもそのくらいで」
千田 「あれ、前職は何だったの?」
小野寺 「いや」
千田 「結構、転々としてた感じ?」
小野寺 「まあはい、ずっとフリーターで」
千田 「うん」
小野寺 「正社員はここが初めてです」
千田 「そっか。じゃあまあ色々と、できることありそうだね」
小野寺 「え、そうですか?」
千田 「うん。頼もしいわー。よろしくね」
小野寺 「はい。よろしくお願いします」
千田 「えっと、じゃあ、まあ、死んだじゃない」

 千田、足元の女性を指す。

小野寺 「死にましたね」
千田 「死んだね。いや、かかったね」
小野寺 「そうですね」
千田 「即死かなーと思ったんだけどね」
小野寺 「消防に連絡されたときは焦りました」
千田 「助かっちゃうもんな」
小野寺 「はい」
千田 「まあ全然あるよ? 救急車で運ばれてっちゃったりとか」
小野寺 「えっ」
千田 「でも絶対死ぬから、大丈夫」
小野寺 「あぁ」
千田 「このリストに上がってきたら、何が何でも助からないから安心して」
小野寺 「死に損なったことは?」
千田 「ない」
小野寺 「よかった」
千田 「現場初めてだし、一応おさらいしとこうか」
小野寺 「あ、お願いします」

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