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54.ほっこりタクシー、2019年2月13日(水)

今日は平日の休みを利用して、とある用事のために外出。目的の場所まではたいした距離ではないけれど、いかんせん除雪が整っていない。道路はまだ良くても、歩道は足場が本当に悪い。雪国の田舎あるあるなのかな。田舎以外もなのかな。

まあ単に私の体力がないとか雪道に足を取られてしまうとか、それを言ったらそれまでなのだけれど、いろいろ言い訳にしてタクシーで向かう。


用事を済ませて帰宅しようとするも、帰り道の近くで停まっているタクシーはない。それも想定内で、歩いて帰ることになるだろうとは思っていたので、一応万全の防寒体制を整えたが、忘れていたのは耳の防寒。

耳がキンキンに冷えて、頭に伝わり、ガンガンと痛みに変わる。今日はそこまで寒くはないのだけれど、頭痛がやっかい。

タクシーどころか車もほとんど通らない道で、まあつかまったら良いかなくらいで歩いていたら、ちょうどいいところにタクシーが来た。手を挙げる。

ところが、運転手さんは「ごめんね!」と手を拝むように挙げて、すーっと通り過ぎる。どうやらどこかへ向かうタクシーのようだった。がっくし。

その後、2~3台のタクシーとすれ違ったのだけれど、全部お客さんが乗っていた。今日はそういう運なのだと思い、とぼとぼと歩く。

道のりに1つも信号がないほどの田舎道。まっさらでまっすぐな道。電灯も少なくて、夜は本当に暗い。昼間でまだ良かった。ときどき家の除雪をしている人を見かけて、「ご苦労様です」という気持ちになる。


家に近づくにつれて、いよいよ歩道の道がなくなってくる。先ほどまでは、まだ歩道の道があった。うっすらと雪がのって、一歩歩くと少し沈むくらいはしたが、それでも道があった。

ところが目の前に道はない。私の後ろに道はできる。高村光太郎っぽくなってしまった。なんか道路の脇に雪がただ積もっていて、誰かが歩いて通ったらしい深く沈んだ足跡がある。これはショートブーツの履き口から雪が続々と侵入してくるなと、ゲンナリしながらも覚悟を決めて、一歩、


と、思いきや、目の前からタクシーがやってくる。手を挙げようか、いやでも近くなってきたし、歩こうかと思ったら、タクシーは速度を落とす。運転席の窓がじーと下がり、「どこまで行くのさ?」と声がかかる。

はっと気づいて、「あれ、さっきの運転手さんですか」と私が聞く。先ほど、手を挙げたけれど、「ごめんね!」と言うように通り過ぎたタクシーの運転手さんだった。特徴的な面立ちではなかったけれど、年齢を重ねて人の良さそうな男性の顔を、一瞬見ただけでも覚えていた。

家はそんなに遠くもない。たいしてお金にもならない乗客なので、なんだか申し訳ない気もして、どうしようかともごもごする。

「いいよいいよ、乗んなさい」運転手さんは、私をなぐさめるような優しい表情と声で言ってくれて、なんだかほっとして「ありがとうございます」と好意に甘えることができた。

「さっきはごめんね、用事があって通り過ぎちゃって」
「こっちいるかなと思って通ってみたんだよ」
「歩くのは大変だよね」
「車全然通んないでしょ」

運転手さんはそうやって話してくれて、何気ないことなのに会話が弾む。本当にそこそこに家は近かったので、割とすぐに着いて、やっぱりちょっと申し訳ないほどだった。何度もお礼を伝えて、無事私は家に到着した。


こういうことってあるんだなと、うれしくなった。お客を逃さないという意味で商売上手と言ったらたぶんそう。でも、おそらく私は険しい顔して雪道を歩いてて、タクシーを拾いそびれてがっくし肩を落としてて、それを見て気にしてくれたのは本当で。そういう心遣いにとてもほっこりした。

外に出るといろんな人の感情がうずまいて見えて、しんどくなってしまうことも多いけれど、こういう人の優しさにも触れられる。いいね。そして、私もこうやって周りに優しくなれる人になりたいな。自分がもらったものを、人にもね。

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