見出し画像

サラリーマンだった僕が魔法学校に入学したら洗脳されかけた話(前編)

もう10年も前の話にはなるが、当時私には付き合いたくてしょうがない女がいた。

 何があの時の私をあそこまで突き動かしたのか、今になってみるとよく分からないが、当時は死ぬほど付き合いたかった。(今更、過去を振り返ってこんな事を言うのは失礼極まりないことは重々承知の上だが)私はその女の顔が特別好きだったわけでもなく、かといって性格が合うわけでもなかった。しかし結果として、私はこの女に1年という時間を注ぎ込んだ事実だけが残った。それに対して全く後悔も後腐れもないのだが、せっかくなので何かしらの形には残しておきたい。「こういった話題は10年経てば時効」と聞いたので、当時の記憶をこのnoteに綴っていこうと思っている。こころなしかなろう系小説のようなタイトルになってしまった。

 2012年9月、まだじめじめとした夏の暑さが残る時期だった。社会人2年目を迎えた私は、苦手だった営業職という名の俳優業にも慣れ、少しずつやりがいを感じはじめていた。しかしそれは家と職場の往復、休日は取引先からの電話が絶えないような日々の繰り返しであることを意味しており、やりがいと同時に「こんなものか」という飽きにも似た感情を抱いていたことも確かだった。

 そんな私の生活に非日常というスポイトを垂らしてくれたのは、大学時代からの後輩Sだった。その日も私は夕方4時に取引先への訪問を終え、「棒アイスを食べながら少し遠回りして会社に戻る」というルーティンをこなしながら、帰社時刻が5時過ぎになる連絡を会社に入れていた。Sからの着信があったのは、そんなタイミングだった。

「アオイさん、お久しぶりっす!唐突で申し訳ないんですけど今度、魔法少女が働くカフェに一緒に行ってくれませんか?」

『ごめん、もう1回言って?』

 聞き慣れないフレーズを耳にした私は自分の心が踊るのを感じた。今でこそ「コンセプトカフェ(コンカフェ)」なんてワードも一般に浸透しつつあるが、これは10年前の話であることを思い出してほしい。当時はいわゆる「メイド喫茶」が主流であり、メイド以外(今回の例で言えば魔法少女)がコンセプトになっているカフェが少しずつ頭角を表しているなんて事実を当時の私が知る由もなかった。

ところで「コンセプトカフェ」って何?となっている、おそらく真っ当な人生を歩んできたであろう読者の方々に説明すると、コンセプトに沿った可愛い制服を着た頭のやべー女が大量に収容されてるガールズバーと思ってもらえれば大丈夫です、はい。(そしてここまで読んで「あーはいはい人生ゲロカス男がコンカフェで散財する話ね」と思ったそこの人生ゴミムシ君。それよりは少しだけ救いのある話だから騙されたと思って最後まで読んでほしい)

『まぁ、いいよ。なんか面白そうだし。せっかくならまだ1日も使ってない有給使うから平日に行こうぜ。』

 と二つ返事で了承してしまった。友人からの誘いを絶対に断らない、をモットーに生きている私からすると断る理由がなかったことも確かだが、それよりも「魔法少女が働いているカフェ」というワードのパワーに勝てなかった。どうやらSもツイッターでこの店の存在を知り、まるでホグワーツへの入学を夢見る少年の如く興味を持ってしまったようだった。

 結論から言うと、私はこの魔法少女カフェに人生を狂わされる結果となる。これは誇張などではなく、当時私の名前を聞いたこともない人はいなかっただろうし、話題に挙げることすらはばかられるような存在へと変貌を遂げていくのだが、その経緯は中編〜後編で語ろうと思うので、もう少し付き合って欲しい。

↓ サラリーマンだった僕が魔法学校に入学したら洗脳されかけた話(中編)
https://note.com/aoicolumn/n/n4f424f178d44

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?