リバーシ〜逆転の物語〜
「触るな!」
固い箱が、俺の伸ばしかけた右腕を弾いた。箱に入っていた値札が、あたり一面に散らばる。
「俺は客だ!触って何が悪い!」
「嘘を言うな!この奴隷の子が!金があるなら見せてみろ!」
たちまち露天商のオヤジと取っ組み合いだ。
市場の奴らが振り返る。
「お前が触ったから売れなくなった!金があるなら弁償しろ!」
「さわってねぇよ!」
オヤジを足で突き飛ばし、駆け出した。
「誰か!」
叫ぶ声が聞こえる。
「誰かそいつを止めてくれ!どろぼうっ!」
「盗ってねぇよ!!」
一斉に視線が俺に集まる。俺は、右の裏小路へ飛び込んだ。
足の速さには自信がある。
目当ての藁山の影に飛び込むと、追ってきた奴らの足音が聞こえてきた。
「いないぞ。」
「向こうか?」
手ぶらで逃げる俺を追うのは、いい憂さ晴らしを見つけたからだ。捕まれば、しこたま殴られる。
この国の奴隷は、野良犬と同じだ。
だから、俺は傭兵になる。こんな国捨てて自由に金を稼ぐ。そして、母さんを隙間風や虫の入ってこない家に住まわせてやるんだ。でも、今の俺は剣さえ買えない。じわっと悔しさに涙が滲んでくる。
俺は考えることをやめて、暫く空を見上げていた。
流れた涙が乾いて頬がピリピリする。
仕方なく腕で頬を拭うと立ち上がった。
俺は傭兵になる前に、人にならなきゃな。
日が傾く頃、村へ帰った。
見ると村の入口に馬がいる。
まさか、あのオヤジが警備兵に泣きついたのか?やばいぞ。
後ずさりする俺の背中が、何かにぶつかった。
振り返るとリグ兄だった。
「セーヴァ、話がある。」
「えっ。」
いつもと全く違うリグ兄だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。これには理由があって、その…。」
「いいから来い。」
村の入り口へ近づくと、中から母さんが出てきた。
「セーヴァ。時間が無いからはっきり言うよ。お前は今日から母さんの子じゃない。お前を、主様がお売りになった。」
【続く】
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