見えたのは #シロクマ文芸部
紫陽花をジュースにして飲むと見えないものが見えるようになるらしいからやってみようと思う
紫陽花をとってきてうちでミキサーにかけた
道の途中でいろんな人にガン見された
何人かは指までさしてきた
気にしない気にしない
紫陽花のジュースは紫蘇ジュースみたいな綺麗な赤紫だった
涼しい色だ雨みたいに
ちょっとだけとくべつな気分になりたくてワイングラスを出す
うちの人にすごくガン見された
あごがはずれるんじゃないかと心配になるくらいぽかんと口を開けていた
気にしない気にしない
透明な赤紫をグラスに注いで氷を五つ入れて飲んだ
うん
おいしい
ばあちゃんの紫蘇ジュースみたいだ
でももっと
きっと雨だ
からだのなかに雨が降ってる
しみこんでいく、からだじゅうに
うんうんとうなずいてふと振り返ると、うちの人がやっぱり口を開けてこっちを見ていた
「あの…将ちゃん?」
あれ
ぼく、見えてる?
ぼくがぼうっと突っ立っていると、うちの人はみるみる涙目になってぼくに抱きついてきた
彼女の両腕は、ぼくをすり抜けた
「…っ、会いたかった。会いたかったよ…」
彼女はわんわん大声をあげた
やだなあ、泣かないでよ
ぼくはちょっと腕をあげて彼女の頭を撫でた
もちろん、さわれないけど
でも、ちゃんと心を込めて、撫でた
「ずーっと前から、ぼく、いたよ。ここに」
聞こえるかなあ
だって紫陽花のジュースは、見えないものが見えるようになるだけだから
そうしたら、彼女はくすりと笑って言ったんだ
「うん。なんとなく、わかってたよ」
それから
「ありがとう」
ってさ
完
怪談は夏の風物詩也。
読んでくださってありがとうございます!