INHALE #シロクマ文芸部
透明な手紙の香り。それは朝の匂い。やや甘くて、すううっと光っている、冷えた風の香り。
朝、春、若さ。そういうものにこそ、私は消失を思う。
消失には2種類あって、吸収と、離散。
たとえば朝食のベーグル。もふもふしたあの生地は私の体内に吸収される。でも、ベーグルの真ん中、あの穴は。食べる前には、たしかにある。食べたあとには、空気中に溶け込んで消える。
世の中の全てのものが消えるなら、私はその全てを取り込んでしまいたい。手に入らないあの穴のために、私はベーグルが悲しくなる。