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フィクション集

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葵の小説です。長いのも短いのもあります。
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記事一覧

【1200字小説】 風鈴とヒッチコックとプールの底のステーキ #シロクマ文芸部

 風鈴とかあったっけ、うち。  あたまのうえで、ぶどうみたいにたくさん垂れ下がってじゃら…

葵
4日前
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【葵のメルヒェン】 怖いものしらずの王子

 むかしむかし、ある大きな国の老王は、ひとり息子のことで悩んでいらっしゃいました。若い王…

葵
1か月前
15

見えたのは #シロクマ文芸部

 紫陽花をジュースにして飲むと見えないものが見えるようになるらしいからやってみようと思う…

葵
1か月前
22

【葵のメルヒェン】 黄金の鳥

 むかしむかし、ある小さな村に、美しい娘が住んでいました。気立てが優しくて、よく笑い、よ…

葵
1か月前
14

116年後の第一夜 #シロクマ文芸部

「雨を聴くと、落ち着かない気持ちになるんです」  彼女は言った。彼女のうしろで、大きな窓…

葵
2か月前
26

【ノンセンス小劇場其の弍】マジカルバナナ

「なあ、マジカルバナナしようぜ」 「?、マジカルバナナってなんだ」 「ほらあれだよ、なんと…

葵
2か月前
17

文明大火 #ネムキリスペクト

 そこは世界のすべてだった。王子の証である海水晶の嵌まった金の腕輪を光らせて、彼は世界のすべてを持って生まれた訳だった。なだらかな額は叡智を秘め、すぐれてかたちのよい眉と、雨の日の海のような深い眼は、彼の父の国のすべての人間に愛された。  そこは世界のすべてだった。広大な陸地だ。一周するのに七日間かかる。海水晶の採掘所を中心にして、静かな深い森。そこから流れ出る清い川は、七つの村落を緩やかにはしって、さいはては天と落ち合うまで続く海へとそそぐ。海は透明で、眼の届く限りはガラス

【2000字ノンセンス小劇場】君たち文化祭でバンドやるんだよね

「そうなんすよー。クラスにめっちゃ音楽詳しい奴がいて、いろいろ教えてくれるんすよ。そいつ…

葵
5か月前
20

今日だけを歩いてきた君が #シロクマ文芸部

 青写真、とか。見たことなかったな。  どうとでもとれる感想を、君の唇が零す。  こんなに…

葵
6か月前
32

天使の去ったあと [創作大賞2024][ファンタジー小説]

 まぶたの裏にほのかな明かりがともった。胸の上をすんなりと覆う静かな布団の匂いが鼻腔に漂…

葵
7か月前
23

戦場で、素直じゃない君と #シロクマ文芸部

「誕生日に欲しいのはあなただけ」  節をつけて言うと変顔された。 「なにその顔」 「あてて…

葵
8か月前
29

【ネムキリスペクト】絵のなかで恋をしている

 ふとこんな想像に囚われることがある。  私は写真のように精緻な絵を見ている。絵を眺める…

葵
9か月前
35

【ピリカ文庫】みんなすやすや眠る頃

 痛い。苦しい。辛い。悲しい。  真美は玄関で靴も脱がずに倒れ伏した。スーパーのレジ袋か…

葵
9か月前
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メランコリー・ノスタルジー・ファンタジー #シロクマ文芸部

 文化祭の後片付けで夜八時まで学校にいた。  昼の底が朱く吹き抜けた。朱の上が黒冷えした。僕はそれを仰ぎ見てばかりいた。こういう行事は準備してる時が一番楽しいんだよな、と、ため息交じりにかれこれ百二十回くらい唱えた。  家に遊びに来た友達が帰ったあと、それ以前の喧騒から一層静謐さを増す部屋にひとり取り残されて、みんなで食べ散らかしたお菓子の後片付けをする、その何とも言えない胸の空白、虚無感ともいうべき感覚。それとさらに、この祭りのためにかけた時間、絞った脳みそと労力を振り返る