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雲のいづこに #シロクマ文芸部

 ただ歩く。しっとりと重い空気を鼻先に、傘は頭上でぱちぱちと拍手する。こいつだけは暢気なものだ。出番が嬉しいらしい。

 足から出まかせで家を出て、口から出まかせで日々を歩む。何になるとも、どこへ行くともわからない。自分が何を欲しいか、何がしたいか、はっきりと像を見たことがない。強いて言えば何もしたくない。
 何かしろ、何かになれと、自分のかたちの内外からきゅうきゅう押されている気がする。人生がベルトコンベアのように、勝手にどこかへ連れて行ってくれたら良いのに。

 ただ出鱈目に歩く。雨は白い線になって自分のかたちの外を埋め尽くす。重く生暖かい空気はどこか甘くて、枯れかけた向日葵の上に乗っかって溜息をついている。傘がたてる音がとろけた脳味噌をちりちり揺らす。自分は何をやっているのだか。

 歩き始めたのと同じくらい唐突に立ち止まる。
「わ」
 傘と傘がぶつかった。水滴が盛大に背中にかかる。
「ごめん。どこ行ってるかわかんなくなった」
「別に」
 彼女は隣に出てきた。
「良いよ、迷っても。迷ったから見つけられるものもあるし」
 柔らかな横顔で、そう言う。彼女の首の動作を察知して、こちらを振り向くと同じ速さで顔を背けた。微笑の気配がした。
「一緒に、ただ、歩こう」



 お久しぶりですシロクマ文芸部の皆さま。と言ってもコレ3回目。幽霊部員、正体見たり枯れ尾花、なんつって、私、花咲く葵ですのよ。まだ子葉かも知れんがな!あはははは!



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