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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第27話

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第27話「お兄ちゃんにも笑顔を見せてくれ!」

 10月。この時期は各学年と部活動が気合いを入れる学校を挙げての一大イベント、文化祭シーズンだ。

 俺の通っている公立N高校はこの文化祭の目玉となる大・イベント『ミスコン』が毎年開催されている。
 ここ2年間はテニス部のマネージャーである松宮先輩が栄冠を手にしていた。
 先輩は、あのウブな弘樹ですら虜にする抜群の美貌だ。手のひらで覆えそうな小顔。勿論出るとこは出て、締まるところは締まってる。スタイル抜群で、頭も主席レベル。
 後輩の指導も欠かさず、人当たりも良く男女問わず人気が高く、非の打ちどころがない。

「今年も松宮先輩かなあ?」

「わかんね~ぞ。今年は外部からの出場も可能なんだってよ?」

 雄介の言葉にふと麻衣と栞の姿が浮かんだ。
 ミスコンかあ……。
 栞だったら喜んで参加してくれそうな気がする。もしかしたら、いつもと違う服装の可愛い栞が見れるかも? と思うと自然と顔がニヤけた。

「……そういやお前、彼女が出来たんだって?」

「おう。栞って言うんだけどさぁ。マジ可愛いんだよ。時々女王様気質あるけど」

 栞と一緒に映る写真を雄介に見せると、隣に居た弘樹も興味深々の様子で俺の”彼女”に食いついた。

「うわ、めちゃ可愛いじゃん。こりゃあ忍には勿体ねーな」

「失礼だぞ雄介」

「麻衣ちゃんも知ってるのか?」

「栞はあいつに関係ねえよ」

 大体、妹が何時までも兄貴、兄貴って食いついてくるのがおかしい。いや、麻衣の場合は食いついては来ないか。人殺しでもしそうなくらい感情の消えた冷たい目で俺を睨んでくるだけだ。
 それに、俺だっていい加減麻衣の呪縛から離れて、栞ともう少し進んだ関係になりたい。

「なあ、雄介。今度お前とまっち~の楽しい話聞かせろよ」

「あん?何、初めてのバツバツとか?」

「……お前、えげつねえな」

「まっ。センパイとして助言するとだなあ、とにかくムードは大事だぞ。まっち~にビンタされたからな。『ムードが無い!』って」

 ムードねえ……。俺にはそういうのを作るのは無理かもしれない。
 有難くエロのセンパイ(?)から助言を受けた俺は小さく手を合わせた。……とは言え、しょっちゅう女を変えるこいつの性格はまったく褒められないか。まっち〜以外にも候補いるし。

 失敗はしたくない。絶対に栞といいムードで、恋人デートを完成させてみせる。

「なぁなぁ、忍、お前の可愛い彼女紹介しろよ?俺もまっち~をミスコンに誘うからさあ」

「栞は部活で忙しいから来てくれるかわかんねぇぞ~」

 と言っても、栞は俺がお願いするときっちり週末予定を空けてくれる。俺には勿体無いくらいマジで可愛い彼女だ。
 空気は読めるし、可愛いし、デートでもお互い言いたいこと言って、何より羽球繋がりで趣味もあう。
 そしてなかなかスタイルもいい。胸は大きめ、いつもワンピースやミニスカートで綺麗な足を披露するから羨望の眼差しを追い払う俺の方がハラハラする。

 念の為、LINEで文化祭に来れるか訊いてみると、数分後にスタンプ付きであっさりオッケーの返事がきた。



******************************



 T高校の羽球部の美少女・栞が来るという噂が雄介の所為で広まってしまい、俺は今まで非リア充として連合を組んでいた仲間から猛烈な嫉妬にあった。

『裏切り者! 忍と弘樹だけは俺達を裏切らないシスコンだと思っていたのに!』
『可愛い妹の写真持ってこい! 麻衣サマは俺達の癒しだ!』
『麻衣サマの満面の笑みの写真を寄越せ!』

 いや、俺のせいじゃねえし。ってか、そのミッションはかなり難しい。
 雪ちゃんみたいにいつも可愛く笑う子じゃないんだよ、うちの麻衣ちゃんは。

『ひ、弘樹……』

 唯一の盟友であった弘樹に助けを求めるが、非リア充連合は結束力が半端なく強い。伊達に妄想だけで麻衣サマファンクラブを勝手に設立していない。
 『田畑、これはもう諦めろ』と笑いながらを首振っている。これで、俺を助けてくれる者は誰も居なかった。



「はぁ……どうすっかなあ」

 玄関の目の前で俺はずっと非リア充連合の執拗な絡みを反芻していた。

 麻衣が『俺の為』に笑ってくれたら天地がひっくり返るだろう。地球が壊れるかも知れない。それくらい激レア、いや100%ありえない光景だ。
 いつもニコニコしている雪ちゃんの笑顔の半分くらい、麻衣に横流ししてくれないだろうか? または雪ちゃんの写真で合成するか?

 そう言えば、麻衣は何時から俺に向けて笑わなくなったんだろう。時々、口元だけで笑ってることはあるけど、腹を抱えて笑うような姿は一度も見た事がない。あんなに俺がお笑い番組つけたり、下らないギャグもやってきたのに。

 もしかして、あいつはまた何か悩んでいるのか?
 雪ちゃんと仲良くなる前まで、友達らしい友達の話は無かった。女子連中に散々虐めにあってたから、その所為なのかも知れないが。

「……ちょっと、兄貴そこ邪魔」
「うぉっ!? ま、麻衣ちゃんお帰り……」

 いつの間にか俺の背後に立っていた麻衣は俺を片手で退け、鍵を開けると先に家の中に上がっていった。

『いいか、忍! お前に課せられたミッションは2つだ! 麻衣サマの可愛い笑顔の写真を持ってくる、または麻衣サマを笑わせる、だ』
『どっちも無理に決まってるだろ!弘樹の妹に頼め』
『馬鹿野郎!ツンデレの麻衣サマだからいいんだよ!分からないのかお前はっ!クールな麻衣様が女神のような微笑みをだなあ……!』

 ああ……妄想部には付き合いきれねえ。そもそも、こいつらが本物の麻衣を見たのは栞との練習試合一度っきりだ。何故か俺が景品になったという噂を聞き、あの時の観客としていたこいつらは俺の為に必死になる麻衣に一目惚れした。
 それからだ。今までは『雪サマ最高!』『天使の微笑みを俺達に!』とかほざいていたのに、いきなり鞍替えして麻衣に萌えだした。

 思い出すだけでどっと疲れる。俺も麻衣に続いて家に入り、制服から部屋着に着替えた。
 麻衣も珍しく汗だくだったのか、さっさと制服を脱いでいる。
 兄妹だからあまり恥じらいというものは無いのだろう。麻衣は俺が見ているのも気がついていないのか、黒のブラジャーと同じく蝶々の刺繍がついたパンツだけの姿になっていた。
 歳を重ねる毎に麻衣が身に着ける下着が変わってきたような気がする。あ、俺が決してパンツチェックしている訳じゃねえけど。

 少しずつ大人になっていくあの姿を、いつか麻衣も他の男に見せるのかなあ、とぼんやり思いその後ろ姿に見惚れていた。
 数秒後、俺のエロい視線に気づいた麻衣はこちらを一瞥した後、顔を真っ赤にしてそんな格好のままずんずん近づいてきた。

「ちょ、ちょっと!何携帯向けてんの!?」
「え……?」
「まさか、下着写真なんて撮ってないでしょうね?ふ、ふざけないでよ……!」

 そういえば、麻衣の笑顔を撮って来いとか言われた所為で玄関からずっとスマホを持ったままだった。
 下着姿の麻衣の方向にカメラが向いていたので、確かにそう言われてみたら怪しまれても仕方がない。
 俺は言い訳も何も出来なかったので、正直に非リア充連合の仲間から麻衣の笑顔の写真が欲しいと言われた事を話した。

「頼むよ、麻衣ちゃん~」
「嫌。どうせそんな写真撮ってもロクなことにならないもん」

 ぷいっとそっぽを向いてしまった麻衣はまだ下着姿だった。俺に抗議する前にさっさと着替えたら良かったものを。

「ひゃっ!?」
「……そんな、無防備な姿を男に見せんなよ。麻衣」
「ちょ、ちょっと着替えさせてって!」

 無意識だったと思う。下着姿の麻衣をしっかり腕の中に抱きしめていた。どうしてこんなことをしたのか分からない。
 俺の腕から逃れようと身じろぐ麻衣は珍しく普通の女の子になっていた。
 頬が赤い。体温も心なしか上昇している。

 麻衣は、俺が好きなのか?
 この質問をしても返ってくる答えはいつも同じ。

「麻衣……」
「えっ」

 少しだけ麻衣の眸が揺れ動いた。何かを感じたのか、頬を赤らめたままきゅっと眸を閉じる。



 こちょこちょ。

 こちょこちょ。



 脇腹を擽ると、麻衣は笑うどころか、あっと更に色っぽい声を上げた。

 何だよその声、反則だろ!!

 思わず漏れたその声に、俺は驚き過ぎて麻衣を抱きしめていた手を離してしまった。
 その瞬間、俺を涙目で睨み付けてきた麻衣の強烈な肘鉄が、俺の脇腹に命中する。

「ぐふぉっ……!」
「最っっっっっっ低!」

 崩れ落ちた俺は麻衣にトドメの一言を放たれ、フローリングに突っ伏した。一発KO負けだ。

 俺には無理だ……麻衣を笑わせるなんて。
 でも、あの下着……確か新しいやつだよな。
 一体麻衣は誰に見せる為にあんなに可愛いパンツを買ったんだろう?

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