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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第26話
第26話「シスコンって言わないで!」
「忍、お待たせ~」
「おぅ。んじゃ行こうか?」
栞とのデートはやっとこれで4回目か。
内2回は麻衣と雪ちゃん、柿崎ちゃんに妨害されたり散々だったが、今日は違う。
最初っから麻衣には『栞とデートしてくる』と正々堂々宣言済みだ!
だってそうだろう? 何でいつもデートを妨害されるんだ。しかも、こないだ俺は練習試合の「景品」となり、勝負に栞が勝った。これで形式上でも麻衣が邪魔する事は出来なくなった……はず?
反応は「あっそ」と酷く素っ気ないものだったが、あの態度であれば、今回こそ妨害は無いだろう。
「忍?」
俺の顔が少し険しかったらしい。隣で俺の腕に絡みついていた栞の胸がぎゅっと押し付けられた。
「うぉっ。な、何、どうした?」
「まぁた麻衣ちゃんのコトでしょう?このシスコン」
語尾のシスコンって所が妙にドスが効いてて俺はショックを受けた。彼女にシスコン呼ばわりされるのは思った以上にキツい。弘樹をいつもいじって散々言ってきたが、あいつも同じ気持ちだったのか。すまん弘樹……。
「違うっ!! 俺は麻衣に対してそういう感情はだなぁ……」
「あーあー、それはもう聞き飽きたっ。……いいから行こ? 今日は栞サマとデートだぞ?」
自分で“サマ“とかつけるな。ったく……。
栞が俺のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいのだが、皮肉なことに『妹に優しい俺』が好きだと言う。
そのくせ、麻衣のことを気にするとこうして不貞腐れる。どっちを取れば栞は満足してくれるのだろうか? 女心って、本当に難しい。
「ほら、忍っ。ここ」
「ここって……」
栞が行きたいと言ってたお店は、手作りのペアブレスレットを作っているお店だった。
客は当たり前だが、キラキラしたアクセサリー好きな若い女性が多い。よく見るとここに居る男って、俺一人だけじゃん!
これは物凄く居心地が悪そうなのだが、栞がキラキラ瞳を輝かせていたので中に入る。
「いらっしゃいませ、どのようなものをお探しでしょうか?」
店員に声をかけられた栞は、俺の腕を引っ張り、胸を押し付けながらお揃いのブレスレットを見繕って欲しいと言っていた。だから、胸を押し付けないでくれ! 理性との戦いが始まるじゃないか。
本来、パワーストーンは高級なのだが、この店ではどうやら形が悪く小さく削らないと売りものにならない所をうまく回しているとかで、単価コストが安いらしい。
そのお陰で学生でも手軽に買えるリーズナブルな値段が人気の理由になっている。
「へぇ〜、沢山あるんだな」
俺はそういうものを見た事も無かったので、興味深々に店員の出してくれた石をじっと見つめた。
「忍、ちょっとお姉さんに近いよ」
「あ、あぁ。悪ぃ」
「ふふっ。可愛いカップルさんですね」
店員の褒め言葉に、栞は嬉しそうに顔を綻ばせていたが、俺はそれよりも神秘的な光を放つアメジストのブレスレットが妙に気になった。
「ねえねえ、忍~。お揃いのクリスタルにしようよ? これは運気も上がるみたいだし、私が次の試合でも勝てるようにって」
「……俺はこれ以上運気上がっても、帰宅部だぞ」
運気が上がった所で麻衣のツンデレが治るわけではない。まして俺は帰宅部だ。これを麻衣にあげたら栞は間違いなく怒るだろうし、まあ栞には高体連頑張って欲しいからいいか。
まぁ、想像以上に値段も安いし、これだったらこないだ父さんがスロットで儲けた時の臨時収入がきたので買えないこともない。
俺は栞とお揃いのクリスタルのブレスレットと、もう一本別にアメジストのブレスレットを買った。
「それは麻衣ちゃんに?」
「ん? あぁ……こないだ俺の中履き用の紐買ってくれてたから、そのお礼」
「ずーるーいー」
栞は自分から麻衣の名前を出したくせに、一気に機嫌を損ねて俺の腕をぐいぐい引っ張ってきた。
「ねぇ、忍。ちゃんと言ってなかった私が悪いんだけど、私は忍のこと大好きだよ。麻衣ちゃんに試合も勝ったし、私とお付き合いしようよ」
まさか、彼女から告白されて正直驚いた。俺の顔を見て栞はくすくす笑っている。
「次のデートでは、一切麻衣ちゃんの話無しね?」
「麻衣の名前最初に言ったのは栞だろ……」
俺は栞の腰に手を回して軽く身体を引き寄せた。自然と距離が近くなり、互いの額がこつんとぶつかる。
「だからって、忍がそれに釣られたらダメ」
「オーケー栞。じゃあ、もうちょっと恋人っぽいコトする?」
えっ、と驚いた彼女の小さな唇に、自分の唇をそっと重ねた。
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「ファーストキスはレモン味?」
「何それ、超気持ち悪い」
でれっとした顔のままリビングのソファーでごろごろしていると、麻衣から蔑んだ眸と冷たい言葉が飛んできた。今は幸せ有頂天だ! 何とでも言え!
だって可愛い栞と初キスだぜ?
そりゃあ興奮しちゃうよ。俺の恋人プランにまた一歩近づいた感じ?
始終へらへらしている俺に、麻衣は酷く冷たい。デート如きで浮かれるな、とその背中が言っているように見えた。
俺に恋人が出来ても関係ないって言ったし、少しくらい惚気てもバチは当たらないものだと思う。
「あ、そうそう。麻衣にお土産があるんだよ」
「……何?」
物凄く面倒そうな態度でこちらを見ている麻衣に、俺はプレゼント用の袋に包まれたブレスレットを取り出した。
「麻衣は誕生石アメジストだろ? これさ、すげえ神秘的に光ってて、なんかお前っぽくていいなと思って買ったんだ。こないだの靴紐のお礼な」
「あ、……ありがと」
ブレスレットを受け取った麻衣は顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになっていた。
胸元でそれを持ったまま喜びを隠して俯く様子は可愛らしい。
ようやく彼女が出来たのに、俺はデート後の余韻に浸るよりも、珍しく可愛い反応を見せる麻衣の方が気になってしまった。
俺って、やっぱりシスコンなのか?
もやもやする気持ちが続くなら、とっとと麻衣に彼氏が出来て欲しい。麻衣も男が出来て俺に干渉しないでくれたら、多分俺は栞とうまくいくはずだ。
そんな身勝手で、理不尽なことを延々と願う俺なのであった。
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