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まさか、オートロックじゃない家から閉め出されるし閉じ込められるなんて。

タイトルままですが、オートロックじゃない家から閉め出されたうえに閉じ込められて外にも出られないなんて状況に陥ったことありますか?
私はあります。


エチオピアの地方都市ディレダワに住んでいた頃のこと。
私は同僚が大家さんの、ピンクの壁がチャームポイントのおうちに住んでいた。なんと、新築。なかなかお目にかかれない。

トイレ・シャワーと水道は外。それでも全部ついているほうが珍しい。だからそれくらいは気にしない。家具はかろうじて冷蔵庫とベッドがあるだけのシンプルな家を私は楽しんでいた。

間取りはこんな感じ。

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ある朝、私は7時に起きた。8時に活動先の事務所に行くため、支度を始める。鍵束から家のドアの鍵を探して内側から開け、どうせ閉めないので差したままドアをきちんと閉めて外のトイレに行く。今日回る活動先などを考えながら庭の水道で手を洗い、顔を洗い、タオルを取りにドアを開けようとしたら、開かなかった

2回、3回と試すがやっぱり開かない。
は?なんで?
力を入れて押してもダメ、引いてもダメ。ちょっと揺らしてみてもダメ。
え?この家オートロックだったの?

そんなはずはなく、どうも立て付けが悪いせいでかけてもいない鍵が引っかかっているのかなんかで開かないっぽい。
そういえば。
先輩隊員が家に荷物を運び入れる手伝いをしに来てくれた時のことを思い出した。毎回スッとは開かないんですよね、まぁ数回やれば開くんですけど。と言った私に「え、俺そんなの絶対嫌だ」って言ってたな。
え、こういうことですか?


それからしばらく、めちゃくちゃ押してみたり、はたまた引いてみたり、小刻みに揺らしてみたり、押し上げたり押し下げてみたり、立て付けの悪いドアに対してできそうなアクションは全部試した。
まぁ、開かない。
ドアはガラス製なので、ガラスの向こうに私が差したまま出てきた鍵の束が見える。見えるけど、マジで何の役にも立たない。

お隣には大家さんの親戚が住んでいる。鍵は預けてはいけないことになっているのでそこの家にはないのだが、少なくとも知り合いなんだから助けを呼ぼうかと思ったのだけど、それもできない。

なぜか。

うちがしっかりした塀と門で囲まれているからだ。さっきの間取り図に青で足してみると、こんな感じ。

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塀は3mくらい、しっかり侵入防止のブレードまでついている。というか、入居のときJICAから大家さんに交渉してもらってつけてもらった。

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そしてもちろん門にも鍵がかかっている。その鍵の在りかは?
…ガラスの向こうに見える鍵の束の中である。困る~。

家の中に入れない。
家の外にも出られない。
助けを呼んでもやってもらえそうなことがない。
それでも困ったな~としか思わなかったのは、トイレはあるし水道で水も確保できたからだと思う。あと思わぬことが起こるエチオピアという土地への慣れ。


全然開く気配がないまま、塀が作る影の長さでだんだん陽が高くなってきたことを知る。スマホも現地の携帯も全部家の中なので、時間も分からぬ。

そろそろヤバいな~と思ったので、最終手段にしていた、庭にある石に目を向けた。ちょうどいい感じに、うちの庭には漬物石に良さそうなサイズ感の石が1つ転がっていたのである。

ガラスの値段を調べたことはないけど、多分私の生活費で賄えるはず。大家さんには大変申し訳ないけど、割るか。
と、結構覚悟が要ったけど、石でガラスにガツンといった。

…割れなかった。
何回も挑戦したんだけど、傷もほとんどつかなかった。
「めっちゃ丈夫やな!!」というエチオピアのガラスの予想外の丈夫さへの感心と「私体格の割に力がないな!!」となぜかちょっとウキっとした感情を束の間楽しんだが、結局、開かないじゃ~ん困ったな~に戻ってきた。


ここで結末を言うと、私は4時間閉め出されたのちに家の中に入ることができた。
さて、どうやって入ったでしょう?




石で割る努力をしてしばらく、うちの門をドンドンたたく音がした。大家さんの親戚であるお隣さんだった。
「ミズキ、どうしたの?」
当時の私はほぼアムハラ語が分からなかったけど、多分そういってたと思う。お隣さんは英語を話さない。

「鍵、家の中。鍵、ない。家に入れない。」
そして私のアムハラ語力もギリギリこれが言えるくらいだった。

うちの門はしっかりしている。が、訪問者が門の一番際まで来てくれれば相手を確認できるくらいの隙間がある。お隣のお姉さんが手をかんぬきの方に伸ばしながら何か言っている。何言ってるかはさっぱりわからないが。残念ながらかんぬき(赤丸のとこ)はしっかりかかっている。かけたうえで錠前で固定されている。

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…固定されている、はずだった

「このかんぬき…動くな。」
錠前がかかっているものの、緩いのか微妙にかんぬきが動く。そしてどうも長さが十分でなかったのか、その微妙に動いた範囲だけでなんと門が開いた。

ひとまず外に出られた喜びより、「そこは絶対開いちゃいけないところだろ!?」の気持ちが圧倒的に強かった。

ともあれ我が家の敷地にやってきた隣人はお決まりの「ስላም ነው?(サラームノゥ=平和ですか?)」とニコニコ声をかけてくれた。家から閉め出されている私はサラーム(平和)どころではないのだが。

1人入ってくると続々入ってくるのは地方だからか。お隣のお姉さん、おばさん、おじさん、ちびちゃん、向かいの家のおばさん、と5人くらいわやわや「サラームノゥ?」と集まってきた。おおごと。
それぞれ話しながら一緒に開け方を考えてくれた。多分。

ちょっとして「台所から包丁持っておいで」と言われた。家の中だけど、と答えて「なんで!」と怒られたのは、エチオピアでは台所は外にあるはずだからである。間取り図には台所と書いたが、実態は物置だ。
仕方なくおばちゃんが隣の自分の家から包丁を持ってきて、それをおっちゃんがドアの隙間に差し入れ、てこの原理で空間を作りながらドアの隣にある小さい予備ドア(写真赤丸の部分、両方開くと観音開きになる)のかんぬきを外し、家のドアを開けてくれた。

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そっちのドアにアプローチしようとは思いつかなかった。さすが現地の人。

かくして、開いちゃいけないところが開いたお陰で家に入ることができた。

家に入れなくなった理由もエチオピアっぽいが、入れるようになった理由もエチオピアっぽい。


助けてくれた皆さんにお礼を言い、やっとこ家の中に入って時計を見たら11時を回っていた。この間活動先に連絡をなんにも入れられなかったので慌ててボスに電話をする。もう、せっかく今日は地域事務所に連れて行ってもらえるって言ってたのに!

ー約束してたのにごめんなさい、家から閉め出されて今入れました…。
「あぁいいよいいよ。僕も都合悪くて行けなくなったとこだし。」
私の携帯、特に着信入ってなかったのだが…まぁいいか。


この出来事を機に、鍵は肌身離さず持ち歩くようになった。オートロックシステムがなくても安心してはいけない、ということだ。

なおお隣には後日、クッキーの詰め合わせを持って改めてお礼を言いに行った。
でも今思えば、一般家庭ではほぼ見かけないし食べたら終わりのクッキーよりも、扉の合間に思いっきり差し込まれていつ折れるやらヒヤヒヤしたあの包丁の新しいやつを買って持って行った方が喜ばれたかもしれない。

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