8/6 カメラをさげられない

このごろ時々写真機をさげて新東京風景断片の採集に出かける。技術の未熟なために失敗ばかり多くて獲物ははなはだ少ない。しかし写真をとろうという気で町を歩いていると、今までは少しも気のつかずにいたいろいろの現象や事実が急に目に立って見えて来る。つまり写真機を持って歩くのは、生来持ち合わせている二つの目のほかに、もう一つ別な新しい目を持って歩くということになるのである。

寺田寅彦「カメラをさげて」

カメラが欲しい、と思うのだが、しかしこの欲求は何も新しいものではなく、これまでにも幾度もなく抱いたもので、実際に手にしてもいるのだが、ろくに持ち歩かず撮影もしないだけで、自分はカメラを手にしていない、カメラを手にしなければならない、などと思うのである。結局持ち歩く手間という壁を乗り越えられず、また目的地までの往復において歩みを止めるというのがなかなか苦手で、自分は本当には撮影が好きではないのだろうと、諦めるのがよかろう。

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