5/15 掻くこと

数ヶ月前に読んだ古井由吉『読む、書く、生きる』に書くことを意味する各国語の比較の話があって、ヨーロッパの言語で書くことを意味する語(writeとか)はギリシア語の「grapho」が由来で、それは引っ掻いて傷をつけることが原義だというような話があり、一方で「書」という字は「筆」からできた字だというようなことが書いてあった。もちろん、「書」という字の前に「かく」という日本語があって、「掻」という字も「かく」と読むように、それはそもそも引っ掻くことを意味していたようだ。古井由吉はそこまで明確に言い切っておらず、古井由吉の書いていたことを思いだしながら最近ようやくこのことに気づき、筆で書かれることが日本語本来の姿のように(だからこそ日本語は縦書きであるべきなのだ、というように)どこかで感じていたのだが、実は日本語もヨーロッパの諸語と同じく「掻く」ことに由来する書くことを意味する言葉を持っていて、「書く」こともまた輸入品であったのだ、ということに何となく寄る辺のない気持ちにさせられる夜。

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