風俗嬢と頂き物。
ご指名頂くお客様の中には、嬢と仲良くなる為に手土産を持参して来られる方もいます。
照れながらそっと差し出されるお土産には毎回感動しておりました。
日記やプロフィール、会話などから私の好みを踏まえて一生懸命考えてきてくれた事に、微笑ましくなりながら頂いていたある日。
私の日記を見た同僚の嬢が「よくそんなの食べれるよね。変なものが入ってたらどうするの?」と、真顔で尋ねてきました。
全くもって考えた事のなかった言葉に、正に青天の霹靂でした。確かに密室二人だけの空間で、薬でも盛られていたら大変です。
自分の危機管理力の無さに愕然としながら、同時に指摘してくれた嬢の防衛力に脱帽でした。
しかし、照れ笑いしながらそっと差し出されるお土産には抗えず…結局一度も断る事なく全て頂いていました。お礼の日記を見てまた別のお客様が購入してきてくださるという連鎖により、私のお客様の半数以上が何かしらの手土産を持ってきてくれるという事態になってしまいました。
基本的にはスイーツ。手軽に少ない出費で持ってこれるコンビニスイーツから、近所で評判のケーキ屋さん。旅行先のお土産、更にわざわざそれだけの為に他県まで買いに行って下さる方まで。
「あおいちゃんと美味しいものを共有したいんだ。おいしいって笑ってほしい」
こんな事を言われてしまったら、美味しく頂く以外の選択を私はできません。
その他には出張やご旅行のお土産でコスメやお菓子、財布なども頂いていました。わかりやすいブランドものが苦手だったので、一回の出費が高額にならないこともあり、常連様は頻繁に大量に持ってきてくださいました。
そんな頂きものの中で、一番印象に残っているのがお魚でした。
そのお客様は、魚の卸しを生業としていて、気風のいい明朗な方でした。お逢いする度にその明るさに感化されて元気になれる素敵な殿方でした。
話の中で私が魚を卸すことが出来ると知ったお客様は、後日なんと「メジ」を持参してご指名くださいました。メジはヨコワとも呼ぶ、クロマグロの幼魚です。近未来的な銀のフォルム、見事なラグビー型の二キロはあろうかという立派なお魚に興奮してしまいました。
お客様のお仕事後。ほぼ明け方のご指名だったので、お別れした後は自宅にお魚と直帰しました。
ワンルームマンションの台所では狭すぎて苦労しました。鱗を至る所に撒き散らし、全体の半分も入らない狭いシンクで懸命に洗いながら何とか卸す事が出来た時には、すっかり朝を迎えていました。
早速お刺身で頂きました。ムチムチの薄桃色の身。醤油に溶け出す脂が朝陽を浴びてキラキラ輝いていました。何とまあ妖艶な舌触り、途端に溶け出す脂としっかりとした歯応え。
全部がトロでした。幸せのまま寝てしまい、寝坊したくらいに美味しかったです。
流石に一匹全てを一人では食べきれないので、柵に切って知人や店長にお配りしました。
相手を想って贈るものって、本当に素敵ですよね。嬢時代、それはもう沢山の愛を与えて頂いたと自負しております。皆様ありがとうございました。
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これからも、末長いご縁を宜しくお願い致します。
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