男に生まれていたら良かった、と泣いていた自分へ〜高千穂の国見ヶ丘から〜
年が明け、2023年は滞りなくやってきた。
明けてすぐ、私は高千穂町の国見ヶ丘で震えていた。
緊張と武者震いである。
2022年7月に立ち上げたばかりの、「高千穂さと神楽保存会」の元旦御披露目舞。
私はそこで、「岩戸五番」のうち『手力雄(たぢからお)』を一番手で舞うことになっていた。
応援に駆け付けてくれた神楽舞手の先輩たちー兄さんと呼ぶーの奏でる笛の音と神楽唄、太鼓の音をぼんやりと聴きながら、『何だかすごいことになったなあ』と他人事の様に思い返していた。
宮崎の公務員一家の家に生まれ転校を繰り返し、「宮崎嫌い今すぐ出たい」と大学から県外に飛び出し、東南アジアで放浪・現地就職、Uターン後はインバウンドツーリズム事業で起業、2020年に高千穂の夜神楽の近くに居たい という理由で会社ごと拠点を高千穂町へ。
現在は、暮らしに触れ、宝物を探しに行くツアーというコンセプトで、Hidden Gem Journeysというガイドツアーも運営している。
私は、高千穂の夜神楽が好きだ。
この愛をどう表現したら良いのか、全然分からない位に好きだ。地元の人からも若干(かなり)引かれているのを、最近では感じるほどである。
33番を夜通しかけて氏子が舞う、神あそび。
秋の五穀豊穣、冬の御魂鎮め、春の予祝のために奉納される「神ごと」である。
こうしてスマホで取り留めのない思いを世界中に向けて共有することができる現代に残る、唯一無二の村まつり。
私が心から愛する夜神楽は、800年以上の時を積み重ねて継承され続けている。
しかし続いているから、と言うだけではもう足りない位には、日本ー地方の現状は甘くない。
『神さまと人間のオールナイトフェス』と私は表現しているが、現代を生きる忙しい日本人が、どれだけの時間をこのまつりに割きたいと思えるか。
夜神楽への扉を増やしたい
奉仕者殿ーほしゃどん
神楽の舞手のことを言う。
古来、夜神楽は神事芸能であることからも、女人禁制とされてきた。
女性は、ほしゃどんにはなれないのである。
2020年、コロナ禍が凄まじいことになってきたタイミングで、私は引っ越してきた。
もちろん、大掛かりな夜神楽は全集落で中止である。
夜神楽に恋して引っ越してきたのに。
当時、『日本のスピード感からいって、落ち着きました〜と言うのに3年は最低でもかかるだろう』と予測していた。
3年も中止になってしまったら、復活させるのにどれだけのエネルギーが要るだろう?
ほしゃどんが高齢化している集落が多い中で、継続できる所はどれだけあるのか。
『何とか継続させる手立ては無いのか』と考え、2020年、岩戸地区で夜神楽オンラインツアーを企画し催行した。
反省点は多くあれど、大入満員の大成功。奉仕者殿の皆さんとも、たくさんお話をさせていただけた。
それでも、準備段階からずっと感じていたのは、
『一員でない以上は、入れない部分がかなり多い』だった。
ほしゃどんは全員、お仕事をされている。
ほしゃどんそのものがメインの仕事では無いのだ。
集落の氏子のおまつりなため、既にコミュニティとして出来上がっている。定期的にこまめに集まることはない。
夜神楽シーズン間近になるまでは定期的に練習をする所もほとんどない。
コロナ禍ということもあり、コミュニケーションを取りたくても取る機会がなかなかつくれず、ずっとモヤモヤし続けていた。
1人で『趣味として』夜神楽を楽しみ、あらゆる集落を回って撮りためたデータを見返し浸るやり方もあったと思う。
しかし、初めて夜神楽を夜通し拝観した時に直感的に思ったのだ。
『これは絶対に後世に残さないといけない。本気なら、つまみ食い的な表面的な関わり方では実現できない』
それからも、あらゆる場所あらゆるシーンで『夜神楽が好きで笛も練習しています』と言い続けてきた。
楽(がく:楽器のこと)でなら、関われるかもしれないと単純に思ったのだ。
そして不思議な縁あって、現師匠の藤﨑氏と出逢い、中畑神社神楽保存会の初の女性会員として入ることを許された。
地元ではないが、中畑神社の氏子になったのである。
何もかもが前代未聞で、中畑神楽のほしゃどんの皆さんは当初、かなり戸惑い警戒されていた様に思う。
※顔に『師匠騙されてるんじゃないか』と書いてある様に見えた
突然やってきた外の人間、しかも金髪※当時※の女性ー何だか会社を経営しているらしいーが、自分達の誇る大切な文化に入ってこようとしている。
それは警戒するのが当然だと思う。何が目的だ?と思うだろう。当時、自分でもそう思っていた。
それは警戒するのが当たり前だよね、と。
それでも、よそよそしい兄さん達の態度はやはり寂しく、どうしたらもっと理解して貰えるかな、と考えながら動き続けた。
そして同年2021年に、オンラインツアーを催行。
兄さん達の協力のお陰で、やり切ることができた。
何がどうなるのかイメージが湧きづらかっただろうに、それでも完璧に舞いきってくれた兄さん達は輝いていた。
枠組みを超えて
そして、『女性も舞える、舞うだけでなく高千穂の夜神楽を応援したい人も関われる』仕組みをつくるべく、『高千穂さと神楽保存会』を立ち上げた。
❶舞や楽(がく:楽器のこと)をしたい
❷高千穂の夜神楽を応援したい
当てはまれば誰でも入れるチームである。
現在、県内外で12名のメンバーがいる。全員に共通するのは、『高千穂の夜神楽が好き、応援したい』気持ちだ。
全員がそれぞれの役割を果たしている。
1人で叫んでいた頃を思うと、夢の様な状況である。
本当に感謝しかない。
愛を叫び、動くこと
大した年数を生きている訳ではないけれど、男だったら良かった、と泣いたことは一度や二度では無い。
女だから、という理由で評される全てのことが窮屈で仕方なく、だからフェアに実績を問われるファーストキャリアの営業職は私に合っていたと思う。
ジェンダー問わず『信念を持ち結果を出すこと』に注力した過去が、国見ヶ丘の元旦神楽ー女性が面(おもて)を着けて岩戸五番を舞うーまで連れてきてくれたと思っている。
『ああ、星が綺麗』と思ったことしか覚えていない。
きちんと舞えたのかも定かではないし、『私、ちゃんと唱教(しょうぎょう)言ってましたか?』と兄さんに確認したくらいだ。
練習でできたことができなかったことだけは覚えていて、終了後はほとんど寝ていないのに、悔しくて全く眠ることができなかった。
『情熱がすごい』と必ず言われる。
動かす力がある、とも言われる。
しかし私は、愛するものを愛していると、言わずにいられないだけなのだ。
だってさ、カッコいいじゃん。
超イケてるよね?
そう言って、ファンを、仲間を増やしたいだけなのだ。
神ごとー地元の方々が大切に守ってきた村まつりであり、暮らしを体現するものであるという点において、本当にその部分をこそ大切にしたいから、動いている。
急峻な山に囲まれた過酷な環境を生きて積み重ねてきた時間にこそ、
これからを生きる私たちへ授けてもらえる智慧が、詰まっていると確信している。
男だったら良かったのに、と泣いていた過去の私に伝えたい。
あなたは、2023年に高千穂の国見ヶ丘で、元旦神楽を舞うことになる。
男性にのみ許されていた領域に、少しだけ入ることが出来るようになる。
年齢差を全く感じさせないほどに、理解して支えてくれる師匠と出逢うことができて、たくさんの人たちが、応援してくれる様になる。
でもそれは、好きという気持ちを伝え続けることで見られる世界である。
男じゃなければ、女じゃなければ出来ない、と思い込んで、枠組みに自分を押し込めて、足を止めてしまわないで。
思い込みで萎縮しなくて良い。
半歩でもいいから、足を前に出し続けるといい。
私は、高千穂の夜神楽が好きである。
その気持ちひとつである。
そしてこれからも、この好きを形にして扉を増やしていくことが、私たちのミッションであると信じている。
高千穂さと神楽保存会
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