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1/1 2024

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 実家のベッドについた瞬間がおそらく0:20くらいだったから眠りにつく前から年は明けていた。今まで一番長い睡眠を共にしてきたはずのベッドがまだ体に馴染んでくれない、実家2回目の夜。CDTVを見ていたせいで思っていたよりもサラッと年が変わってしまった。昨日も言った通り、自分に関わる何かがその瞬間変わるということもない。気持ちの込もっていない「あけましておめでとう」をまだ起きている親に投げかけてみたりもした。薪ストーブの火が勇敢な音を立てながら激しく揺れている。ガラス窓に煤が溜まっているせいで、中の火はの輪郭は朧げで、ピントの合っていないシルエットだけが浮かんでいる。明けた翌朝、他に帰省してきている親戚を含め誰も起床しておらず、一人きりの朝のひと時を過ごした。例年と比べ暖かいといえど、何も暖房器具がついていない部屋は気温よりも幾分か冷たく感じられる。太陽も山陰に隠れたままの朝5〜7時台はまるで世界中で自分だけが起きているような気持ちにさえなれた。
 田舎と呼べるほどの人数もいない山奥の一軒家の中、薪ストーブの火が絶えないように逐一気を配りながら、その前に座りPCのキーボードを叩く。手探りで頭に流れてくる言葉を選りすぐりながら書き連ねている最中、静寂であるべき部屋の中で火が燃える音だけが鳴っている。それは呼吸の音のようにも感じられる。雄叫びのようにも感じられる。静かでもあり盛大でもある、そんな火の声は静寂よりも何倍も心地が良かった。時折響く、木が弾ける音は笑い声のようにも聞こえ、役50000㎤の箱の中には確実に物語があった。時折心地よさに負けそうになるものの、夕方に取った15分の仮眠が効き、踏みとどまることに苦労しなかった。
 そんな快適さを満喫しているはずだったが、床に何も引かずにあぐらをかき、膝の上でPCの画面を見つめている体勢は思っていたよりも腰や首に負担をかけていたことに気がつく。ふと我に帰ると身体中の関節が悲鳴を上げ始めた。世話をしていた薪ストーブの火力も安定期に入ってきたところで、もう一本薪をくべ、私はその場を立ち去った。部屋には相変わらず火の声だけが透き通っている。


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