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こんぺい糖の蕾♯2

先生と並んで歩けるようになりたいな
手を繋いで
一緒の家に帰って
一緒にご飯作って
一緒の時間を過ごせたら
どんなに幸せだろう
まだ中学生の私の妄想は
これくらいだった

人を好きになるって
不思議
その人と関わった出来事ひとつひとつが
新鮮で
特別で
一瞬で暖かい気持ちになったり
急に落ち込んだり
一喜一憂する
その人に近づきたくて
似合う自分になりたくて
努力したり
どうしたらいいか
たくさん考える
恋の力って偉大だ
自分はまだまだ子供で
先生は大人で
望みのうすい
片想いだけど

数学の授業
ぼーっと
先生の姿を見つめる
先生を好きになって
得した事は
いくら見つめても
怒られる事は無い事かな(笑笑)
見放題
優しい声
ゆっくりと落ち着いた仕草
大人の男って感じの
たくましい
筋肉のついた腕
メガネの奥の優しい瞳
そんな事をぼんやりと考えていたら
目が合って
ドキドキしたのも束の間
当てられてしまった
答えられません。
すいません。先生
聞いてませんでした。

クッキング部が始まる
本日はチーズケーキ
材料は
クリームチーズ100g
生クリーム100cc
砂糖65g
卵1個
小麦粉大1.5
レモン汁大1/2
ひたすら混ぜる

顧問の菊咲先生は
お菓子作りの天才で
以前先生が作って来た
シフォンケーキは
ふわふわで最高に美味しかった

私はクッキング部に入部したにも関わらず、未だにお菓子作りの腕前は上達しない
初めて作ったクッキーは
粉っぽくて
ボソボソだったし
スポンジの生地も
うまく膨らまなかった
それでもちょっとずつは
成長しているとは思っている
……思いたい

ケーキの製作中
友人が言った
「菊咲先生の指、見た?」
「え?」
思わず、先生の手に視線を移す
薬指にはキラキラ輝く指輪が光っていた
「婚約指輪だよ、アレ」
菊咲先生ほど美しい人だもの
婚約者なんていて当たり前だと思った
でも、その次の言葉に衝撃をうける
「相手、誰だと思う?」
「雁宮先生だよ」
その瞬間から
自分の中で
黒くて
不気味で
ぞわぞわする
嫌なものが渦巻いている感覚を味わう

雁宮先生と菊咲先生は
高校の同級生で
いろいろあったらしい
想像した
制服姿の二人を
二人の楽しく過ごした日々を
手を繋いで登下校する姿を
同じ教室で同じ空気で
同じ話題で盛り上がって
同じ感覚でたくさんの事を共有して
想像して
妄想して
感情が
ぐちゃぐちゃになった
ズルい
私も菊咲先生みたいに
見た目も美しく生まれたかった
穏やかで優しい
あんな風になりたかった
雁宮先生と同級生になりたかった
ズルい
ズルい

いくらもがいても13歳の歳の差は
埋まらない
早く大人になりたい
どうしたら良い?
どうする事もできないのは
わかっている

悪あがき
あの日買ったルージュを
塗って見た
少しでも
大人になりたくて

廊下で雁宮先生とすれ違う
ドキドキした
「水原!」
先生に呼び止められた
「ちょっと来い!」
心臓はドキドキだった

「ケチャップが付いているぞ」
「昼にパスタでも食べたのか?」
そう言って
おもむろにティッシュを渡して
立ち去った

自分の顔がみるみる赤くなって行くのがわかる
あつい
恥ずかしい
大人になるって
そういう事じゃ無いんだ

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