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かながわ短編演劇コンペティション 演劇ユニットせのび「レーン」

先日の下北沢での若手演出家コンクールに続いて関東遠征。
応援している劇団の活躍の場が広がることは嬉しいけど、滅多に来ない東京。あ、ひとくくりにしちゃってすみません。今日は神奈川。神奈川さん。

さて「レーン」は前作「アーバン」と共通するテーマもありながらの新作。せのびの作品は、登場人物と同じような感情や体験への共感と言うよりは、何かをきっかけに記憶を呼び起こすような「共鳴」が重要な要素だと感じています。
前作「アーバン」では、2011年1月の箱根駅伝の話をしてみたり、やや地方目線での東京への思いを吐露したり、コミュニケーションの難しさを並べたりしていたのですが、岩手の人なら「2ヶ月前か」と感じる日付も、 東京に感じる思いも、東京のお客さんにはベースが完全には共有されず、なんとなく共鳴が小さくなってしまったような印象がありました。
「レーン」は、地方から首都圏に出てきた人の一人語りから始まり、最初の共鳴をつかみます。ひとしきり喋って引き付けて「いま僕は間違った電車に乗っています」と打ち明ける。「@ Morioka」「ガタンコトン」 でも見せたような、舞台を「そこ」に変えてしまうマジック。マイムを使って電車を表現しなくとも「いま僕は」で舞台に電車を作り出します。ないものを、ないままにあるようにできるのが青葉くん。あるテイで、では進めない。
発言者が入れ替わったり、シーンが繰り返されたりの、せのびを見慣れていないと迷子になりかねない演出も、初見のお客さんを置き去りにしないよういつも以上に丁寧に組み立てられていた気がします。
終盤、線路を歩く記憶でスタンド・バイ・ミーと震災を並べますが、これも「あまちゃん」等でなんとなく被災地外の人も共通に認識できていそうなシーン。マイクを使い、語り部としての独白の縁取りをしたことで、より明確に気づかせ、さらにトンネル内のエコーにマイクの効果を重ねる巧さ。
瑞樹くんの音感の良さも活かせてたし、他にもいろいろありますが、これくらいに。
丁寧に、雑味を取り除いたせのびの更科。「アーバン」で少し尖ったぶんの反動もあるかもしれないけど、これくらいの伝え方で僕はいいと思います。芸術ぶるの、ダサいじゃん(暴言)。初見のお客さんにもしっかりと伝わったんじゃないかと期待します。

【追記2023.3.26 19時】
コンペの結果出ましたね。のびのびやるために、結果ほしかったと思うけど、確実に前に進んでると思います。
制球力で打たせた内野ゴロを、打ち取られたと気づかない人がたくさんいるから、評価されるのには時間がかかるタイプだと思うけど、ずっと良いコースに投げてますよ。球数を減らしていけば、徐々に伝わるはず。

【さらに追記】
3回観て、3回目が一番良かったから追記。
繰り返し観ると、交わらない何本もの路線で間違った電車に乗っている、という導入に意味が出る。
交わらない、どれが真実というわけでもない平行世界が、そっちもあったのかも、でもこうでしかないのだからと、まどろみのように描かれる。

「時制バグってない?」も、初見ではちょっと観客をフォローしたのかなくらいに思ってたけど、舞台の平行線が消えたあとで、もう平行世界はそこにはないはずだから出た言葉だった。
それでもなお、想像すら及ばないけど「わからないけど、幸せでいてほしい」と言う。

カラフルな服や椅子も、情報量少し余計かもくらいに思っていたのに、3回目観たら最後にそれぞれに合う椅子に座って仲間とルートを考えてた。これが今の路線で、それは間違えていなくて、でも寄りたいコンビニは反対車線で。
すごくいい。これは再演したほうがいいかも。

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