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帰納と驚き

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#帰納推論

帰納と驚き 第1章 帰納

 私たちは日々さまざまな推論に基づいて生活している。
空がどんよりと曇れば雨降りを心配してカサを求め、
青信号が点滅すれば赤に変わることを予期して足を速め、
舞い落ちる紅葉にやがて訪れる冬を予感する。
それらの推論のすべてが帰納推論と呼ばれるものだ。

 帰納推論は過去の個別事例(たとえばA、B、Cなど)を前提として同様の全事例(たとえばA、B、C、D…、Z)にあてはまる一般法則を導く推論方法であ

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帰納と驚き 第2章 グルーのパラドクス

 私たちは前章で、すべての知識が前提からの帰納によって獲得されることを確認した。
続く本章では、帰納推論の抱える欠点とされてきた「グルーのパラドクス」を例に「知識は、その対象を前提とした帰納によって得られるものでなければならない」ことを確認しよう。

 そのうえで、本稿において帰納に次いで重要な意味合いを持つ「物語」という概念にほんのさわりだけではあるが触れておく。

グルーのパラドクスの概要 グ

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帰納と驚き 第3章 自然の斉一性原理と時間と空間

 第1章と第2章では、経験した出来事から未知の出来事をおしはかる帰納推論がどのような情報処理なのかを論じ、その本質が情報量の減少にあることを明らかにした。

 本章では少し視点を変えて、「なぜ経験した出来事から未知の出来事をおしはかることができるのか?」という問からはじめて、自然の斉一性原理と時間、空間の関係を紐解いていく。

自然の斉一性原理の概要 昨日の雨と明日の雨、この湖とどこか遠くの湖、今

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