ボクのある日の出来事③

ボクのある日の出来事。
青や赤、黄色の三角旗が飾られた下町の商店街を見下ろしながら、もうすぐ下車するのに空いている座席に腰を掛けた。
一度地下に入り、また出て地下に。
目的地に到着。

立ち上がり下車しようとしたら、
何か冷たいものを感じる。

特殊な訓練を受けた兵士は身の危険を感じると冷たいものを感じるらしい。
だけど、僕は違う。
特殊な訓練を受けたこともなければ、腹筋もろくに出来ない普通のサラリーマンである。
それに物理的に冷たいものを感じる。内腿に。
間違いない。これは横モレだ。
その瞬間、僕の頭の中をその対処方法が一瞬にして走る。
特殊な訓練こそ受けていないが、いつか来るであろうこの非常事態への対処は既に何度もシミュレーション(×シュミレーション)済みだ。
先ず横モレの箇所と想定されるところを左手で押さえ、そして身障者用のトイレに駆け込むのだ。
右手に鞄、左手はおへその左辺りを押さえながら、階段を駆け上がる。
慌てる必要はない。
初めて来た場所ではない。
場所は知っている。
迷うことなくたどり着き、
扉の取っ手に手をかけようとした瞬間、
目には赤いマークが・・・

冷たいものが走る。
今度は物理的ではなく、背筋に。
「なんでやねん?! 誰が入ってるねん! それは兎も角、普通のトイレはどこやねん?」
キョロキョロしながらトイレを探す。
傍から見れば、ただ今にも漏れそうな程お腹が痛くて、慌てて便所を探す中年サラリーマンだ。
僕は違う。
僕は既に横モレしている。
すぐにトイレを見つけ、個室に駆け込む。

一応、お断りをいれておく。
月に一度のあの日ではない。
僕は、立派ではないが立派な男の子だ。
僕はオストメイト(人工肛門保有者)である。おへその左横辺りに人工肛門があり、それを覆う袋「ストーマパウチ」が貼り付いている。
そのパウチが少し剥がれ、横モレしているのである。
基本剥がれることはないパウチ。バタバタしていて交換を怠り、使用日数を少し越えていて剥がれやすくなっていたようだ。
「何故昨晩、交換しなかったのだろうか?」「自分のバカァ!」
後悔先に立たず。先ずは処置しないと。
モレた箇所をティッシュで押さえながら、何とかスペアのパウチに取り替え成功。
古いパウチは「うんちが臭わない袋」に入れ、さっきは閉じられていた身障者用トイレのゴミ箱に。
「さぁどうする?」
スーツのズボンとボーダー模様のパンツはうんこまみれだ。
ワイシャツの一部はドドメ色に。
幸い臭いはあまりしないが。
しっかり手を洗い鏡に映る自分に自問自答する。
「帰ろう」
そう呟く僕の頭の中であの曲が流れた。

泥まみれの毎日だけど
今さら悩んだりはしない
呆れるほど不器用だけど
心に誓った夢がある

by 嵐 「果てない空」

嵐って良いよね🎵















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?