ボクのある日の出来事⑤

ボクのある日の出来事。
ここは飛騨高山。穏やかな山間の街だ。
とは言え中心部は昔ながらの街並みが残り、小京都と呼ばれ観光客は多い。
昨日は観光地の非日常に浮かれ、飛騨牛に舌鼓を打ってしまった。
もう無駄遣いは出来ない。
「真っ直ぐ帰ろう。おうちへ帰ろう。」
宿を出て、愛車ボサノバホワイトのイタリアンカーに乗り込み、エンジンに火をつける。
心地よい小鳥のさえずりが聞こえる。
火は着いていない。
もう一度。
やはり小鳥のさえずりが悲しく聞こえる。
電池切れのようだ。
直ぐにロードサービスを呼ぶことに。
世の中お盆休みなのに、ものの数十分で来てくれた。ご苦労様です。

プロの手際でジャンプスタート。
先程とは違い、僕のイタリアンカーに火が入り、日本の軽自動車より可愛い、いつもの排気音を奏でている。
「生き返って良かったよ~。僕のフィアット。」
感極まる僕に、
「できるだけ早く、一度見てもらった方が良いよ」と告げると、おじさんは颯爽と帰っていった。
直ぐにグーグル先生に教えて頂き街中の国道沿いのオートバックスに向かう。
「申し訳ございません。今、当店に在庫がございません。」
僕の愛車はボサノバホワイトのイタリアンカー。
この日本の、しかもこんな片田舎では在庫がないのも頷ける。焦ってはいけない。
事前に在庫確認の上、お店に向かうべきだったと反省する。
「次に近いお店は何処ですか?」と尋ねる。
「松本です」
「OK!さんきゅー!」
直ぐに松本の店にコールすると、天使よのうな声で店員さんが「ありますよ」と。

「善は急げ!」
早速ナビをセット。
目的地まで90km。
しかも標高1790mの安房峠を越える2時間コース。
一瞬気が遠くなる。
「行けるのか?俺。」
「行けるのか?マイフィアット。」
でも、そこには天使が待っている。
「行けばわかるさ」と自分に言い聞かし
峠に向かう。
綺麗な景色だ。さらに白樺の木々がとても涼しげだ。
出来ればクルマを停めてゆっくりしたい。
けれども今日だけは駄目だ。天使が待っている。
真っ直ぐ前だけを見て、黄金の右足で力強くアクセルを踏み込む。
きっかり2時間。神の御加護の下、無事到着。
足早に天使の元に向かう。
日焼けをした夏の天使は「お待ちしておりました!」と笑顔で迎えてくれた。
「僕こそキミに会いたかったよ!」とは言えず、経緯を伝える。
直ぐにメカニックが僕のイタリアンカーをドックに運ぶ。
「もう、安心だ。」
おフランスの飲み物「オランジーナ」を飲みながら、やさしく目を閉じてスリル満点の今日を回想する。
「天使って、いるんだなぁ・・・」

「お客様」 天使が僕に語りかける。
「お会計やね。なんぼ? これで宜しく」
と魔法のカード「リクルートカード」を差し出す。
「いえ、あの~」天使の目が泳いでいる。
横からメカニックが説明する。
「バッテリーではなく、オルタネーターが故障と思われます。バッテリーもかなり弱っていますが、交換してもしょうがないのでそのままにしております。」
「ですので料金は発生しておりません。」
昨晩、飛騨牛で贅沢三昧した僕にとって、料金が発生しないことは有難い。
「でも、本当にありがたいのか?オルタネーターってなんやねん。シュワちゃんか?」
戸惑いを隠しながら
「で、どうすれば?」

メカニックは答える。
「バッテリーに負荷をかけない為にもライトをつけずに済むよう、明るいうちに帰った方が良いですよ。そして直ぐにディーラーで診てもらってください。」
異論はない。
異論はないが釈然としない。
10年前の自分ならメカニックを殴ったかも知れないが、もう50近い良い大人だ。
人に手をあげたりはしない。
「そうですか・・・。わかりかました。」

ここは長野県松本市。
国宝 松本城 がそびえ立つ城下町。
自宅まで、250km 。
4時間はかかるだろう。
既に午後2時を回っている。
迷ってる暇はない。
「お気をつけて」
天使のような悪魔の笑顔で見送ってくれた。
刺すような夏の日差しを浴びながら、イタリアンカーに乗り込む。
未だ整理の付かない気持ちを押し込み、走り出したその時、僕の頭の中であの曲が流れた。

走り出したら
何か答えが出るだろうなんて
俺もあてにはしてないさ
してないさ~

by SHOGUN 「男達のメロディー」

なんくるないさ~🎵
























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