ボクのある日の出来事①

ボクのある日の出来事。
電車に乗り暫くすると1人の小柄なお父さんが乗ってきた。
年の頃は80前後、カーキー色のジャンパーに銀縁の眼鏡。
右手にはしっかりと競馬新聞を握りしめて。
辺りを見回しながら、そのお父さんは僕のとなりに座った。
独り言を呟く。
「この電車は品川にいくのかな?」
勿論、返事はない。
意を決したのか、お父さんは僕と反対側に座る女性に尋ねた。
「この電車は品川にいくのかな?」
返事はない。
お父さんは振り返る。真っ赤なその目は僕を捉え、
「この電車は品川にいくのかな?」、と。
その言葉と共に流れてくるこの香り。
間違いない。日本酒だ。いい香りが漂う。
そして何故か親しみが湧く。
「お父さん、この電車は品川には行かへんで」
お父さんは少し残念そうに、
「そうかぁ。そしたら乗り換えな」
「わし、いつも泉岳寺に行くんや」
「品川にはいかないのかぁ」

次の駅、軽やかな足取りで降りようとするお父さんに、
「頑張って!」と声をかけた。
お父さんは「おぅ!」と返事があった。

何を頑張り、何に「おぅ!」なのかわからないけれど、
何故か心が温かくなった。
そして、お父さんの背中を見送る時、僕の頭の中であの曲が流れた。

It's my life


I just want to live while I'm alive


by Bon Jovi 「It's my life」

人生色々🎵

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