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泡日記 光る目、過ぎる日

後ろの方でガザガザと葉が擦れる音が聞こえていた。
最初はそばを通る犬の散歩連れの人が、草に分け入って立てる音と思っていた。すでに日の落ちた公園の広場の頼りなさげに灯る街頭の下に私は立っていて、子供がリフティングを繰り返すのをぼんやり眺めていた。

(離れている両親は)今頃ご飯を食べている頃か、それともテレビの前に二人で座ってニュースを見ている時間だろうか。
年末はどうしたらいいのだろう。
私はまた一人だけで、二人に向き合う事ができるだろうか。

暗くなる前はたくさんの人で賑やかだった広場には、今は数えられるほどの人影しか残っていない。ぽんぽんぽんとボールが跳ねる音に、ガサガサガザと葉が揺れる音が奇妙に重なる。一体なんの音だろうと何気なく後ろを振り向くと、クマザサのような低い藪の隙間に赤茶色の毛皮が一瞬見えてすぐ消えた。

あっ、狸?

笹薮は私のほんの5メートルほど後ろにある。
そんなところで、ボールの音に合わせて葉を揺らすような、振り向いたら負けのゲームでもしていたかのような肝の座った動物の行動に感心してしまった。
でももう今の時間からの公園は夜行性の彼等が主役になるのだから、場所を明け渡すのはこちらの方なのだ。
ごめんね、もう行くね。

子を促して帰る支度を整えてから、乗ってきた自転車の方向を変えるために方向を変えた。その一瞬、暗い藪に自転車のライトが当たったのだが、黒い影だけの背景の中にぴかりとぴかりと、あれは目だと思うのだがずらりと並んで光って見えたのである。

!!

思わず声にならない声が漏れた。
早くここを明け渡せと言わんばかりに、痺れを切らして藪に潜んで私たちが立ち去るのを待っているようだった。

くすっとどこか可笑しい気持ちと同時に、彼等への畏怖の念を抱いて公園を後にした。空を見上げると、雲のない夜空に欠けたお月さまが浮かんでいた。
日曜日の夜。なにげない一日が今日も淡々と過ぎていく。

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