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あなたを乗せて、乗せられて (宗安小歌集19)

「身は浮舟、浮かれ候 引くに任せて寄るぞ嬉しき」 (宗安小歌集)

人は生きていくためにいろんなものに縛られ続けなければならない。

もの心ついたときから、時間、習慣、人間関係、約束などの大切さを覚えていき、
大人になるにつれ守っていかなければならない規則は増えてゆく。

その規則は社会の中で自らも快適に過ごすための大切なことでもあり、
特に仕事においてはそんな規則がなければ、何一つ前に進まない。

しかし男と女の恋愛においては
このような社気的規範、時間的効率が必ずしも当てはまらない場合があるのは、
男と女という関係の基本が、人間の決めたいろいろな規則よりも、
もつと古くにさかのぼれる生物としての原点につながるからだろう。

重たく体を締め付ける衣服から自由になれば、
たくさんのしがらみやルールからも開放され、
二人だけの時間がゆったりと流れていく。

二人でいるときは、速い速度で移動する航空機や高速鉄道よりも、
地図もなく、波に任せるままに彷徨う舟のほうがふさわしい。

道標は、天空にかかる星と月のみでよい。

茫洋とした海原を行けば、
普段はあくせく考えてばかりの心も、茫洋とした気持ちになれることだろう。

特に情事のさなかに流れる時間は、
日常のどんな時間の流れとも違う柔らかさを持ち、
互いの体の上に乗ったときに感じる揺らぎは、
皓皓とした海原を行く舟の穏やかさの如き。

あなたという舟に乗り、
あなたを私という舟に乗せ、地図のない海を行く自由の極楽。

「身は浮舟、浮かれ候 引くに任せて寄るぞ嬉しき」 (宗安小歌集)

私の体は浮き舟のようなもの。浮いて浮かれて、
あなたの思いのままにあなたのおそばによってゆけるのは嬉しいことなのです

二人で過ごす情事のひと時にだけ感じることができる浮遊感。
波に身を任せているような雲の上に浮かんでいるような。
ゆったりと浮くにまかせて二人で浮いていたい。
あなたを私にのせて、あなたに私がのっかって。

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