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恋の行く道を照らす月 (閑吟集31)


「月は山田の上にあり 舟は明石の沖を漕ぐ 冴えよ月 霧には夜舟の迷ふに」
(閑吟集)

恋が成就したときは、誰もが天にも昇る気持ちになり、
特に若い時の恋はまさに夏の太陽が燦燦と照るような、
真夏の海が似合うような、きらめきを浴びるような気持ちになる。

そんなときは何も怖いことはなく、目の前にひろがる水平線のように、
何も邪魔するものがないような気持ちにもなる。

しかし天候というものは、いつかは陰るもので、
やがては空に暗雲が広がり雷雨が襲うこともあるのだが、そんなことなど気にもしない。

ところがある程度、恋愛を経験した後の何度目かの恋の成就というものは、
同様に喜びを伴うものであることは変わらずとも、
過去何度も恋の苦さ、辛さを知っているだけに、
喜びと共にその辛さをも再び経験していく覚悟が心の中で出来ている。

しかるにその心持ちは、夏の太陽のような喜びというよりも、
むしろ月の光の中に身を浸す雰囲気が、たとえとしてふさわしい。

月は、満月の時もあれば、三日月の時もある。
三日月もまた包み込むように恋に光を与えてくれる。
星の見えない夜であっても、雲からから輝く光はしっかりとした道しるべとなる。

夜の海では水平線は見えないが、冴えた月の光があるならば、
恋の舟の先をほのかに照らし、不思議な安心感を与えてくれるもの。

夏の太陽のめらめらとした日差しは心をその外側から急速に温めるが、日が沈めば急に冷めてしまう。
しかし、ほの暗い月の明かりは、心の内側から外に向かって、じわじわとぬくもりを浸透させていくから、そのぬくもりはなかなか冷めることはない。

たとえもし、その恋が終わっても、ずっとその後のその人の人生を暖め続けてくれる。
そんな月のぬくもりのような恋。

「月は山田の上にあり 舟は明石の沖を漕ぐ 冴えよ月 霧には夜舟の迷ふに」
(閑吟集)

月が天にあるからこそ、舟は迷うこと無く沖をゆく だから月よ冴えていて 霧がでいると舟も迷ってしまうかもしれないから。

秋の月は一年で一番冴え冴えとし
あなたの天空を輝かせてくれる。
だから、恋の行く道はしっかりと見えているだろう。

あなたを見つめる男の笑顔は、あなたの心を外側からあたためて、
あなたに語りかける男の声は、あなたの心を内側からあたためる。

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