笑顔と泣顔の分水嶺
あなたの顔は私の言葉でその彩りをくるくる変える。
さっきまで笑っていたと思ったら、
私の言葉一つに、走り雨のように目を潤ませて、
さっきまで泣いていたと思ったら、
私の接吻一つで、
雨上がりに濡れた花びらのようなあでやかな笑顔を見せてくれる。
私のちょっとした言葉に動揺し、
ささいな不安に襲われて哀しい顔をする。
人は笑顔と泣顔をつねにくるくる入れ替える。
いったいどこにその分水嶺があるのだろう。
泣きながら笑ってみたり、笑いながら泣いてみたり。
それがわからないから、きっとその人を好きになるのだろう。
好きだから、その人の言葉ひとつで笑顔と泣顔を簡単に切り替える。
あなたの顔は私の愛撫でその風情をくるくる変える。
さっきまで、そこはかとない深さの微笑を見せていたと思えば、
私の指があなたの敏感な部分に触れたとたんに、哀しみにも見た切なさを見せる。
行為の渦中に入ったときには、夜叉のような怒りに狂った顔で私を睨み、
炎のような凝視で私の瞳を焦がすように見つめる。
そうかと思ったら、いつの間にか泣顔になっている。
いったいどこに、あなたの笑顔と泣顔の分水嶺はあるのだろう。
それをつきとめたくて、あなたをまた抱きたくなるのだろうか。
しかしそれはきっといつまでもわからない永遠の謎。
それなのに、あなたは私の笑顔と泣顔の分水嶺を知っている。
どうしたら私を笑顔にするか知っている。
泣いているのか笑っているのかわからない表情を見せながら、
あなたは私をその手と唇と体で喜ばせる。
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