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風読人

私たちが普段無意識に呼吸している空気は、
いったいどこから来て、どこに行くのだろう。

地球を取り巻く空気はみんなつながっていて、
風のむくままに、雲の流れと同じように、
どこへでもうつろっていくのだから、

あなたと同じ空気をこうして吸っていることも、
考えてみれば恐ろしいほどの偶然。

今私たちが吸っている空気は、
どこか遠い国の恋人たちの情交の吐息だったかもしれないし、
戦乱か暴動の最中の叫び声だったのかもしれない。

英語の“scene”という言葉に相当する日本語には、
光景、背景、風景、情景などいくつもあって、

光景、背景は、戦争の光景、事故の背景、などのように
ただ事実やその原因を表現する言葉だが、

ここに風が通れば、「風景」となり、
海山の風景、恋人たちの風景、子供たちが遊ぶ風景、
などのように風通しのよい心地よい雰囲気が漂い、

そしてさらにそこに感情が込められれば「情景」となり、
出逢いの情景、接吻の情景、再会の情景、
などのように喜怒哀楽がたっぷり込められていく。

最近は、空気が読めない人が増えているという。

それでは、風の吹く方向もわからず、
ひいては光景を、風景、
そして情景に変える力も持たない。

同じ空気を吸って、
二人の風の流れを読めて、
さらに情を深められるなら、

二人の吐息がまた空に登って、
遠い国の恋人たちの吐息と混ざる方向に、
風は流れていくのだろう。

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