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ありがたいこってす現象

嫁が辛いものを食べて、「からぁ〜!」と言った。

その後、もっと辛いものが出てくると、嫁はそれを一口食べて「あ、こっちはマジで無理なやつだ」と漏らした。

そこで嫁はまた最初の辛いものを食べて、「あ、今度はそんなに辛く感じない、いける」と言ったのだった。

それを聞いて僕は、「ああ、これは“ありがたいこってす現象”だな」と思った。


皆さんは、『ありがたいこってす!』という絵本をご存じだろうか。

これは僕が幼稚園児の頃に読んだ児童書である。
https://douwakan.co.jp/book/ありがたいこってす!/

物語の中身について、説明しよう。
(絵本の結末を知りたくない人は読まない方がいいです)


『ありがたいこってす!』ストーリー
①妻・母親・6人の子どもたちと小さな家に住む貧しい男が、大人数で狭い家に暮らしていることに耐えられなくなる。


②男がその悩みを師匠に相談すると、師匠は、飼っている動物たちを家の中に入れて一緒に暮らすよう、男へ指示をする。


③男は師の教えを実践するのだが、家の住人が増えたことで、男は家をより窮屈に感じるようになる。


④最後に動物たちを家の外に出して最初の状態に戻すと、以前は狭く感じていたはずの家を男は広く感じるようになり、その現状に男は「ありがたいこってす!」と感謝する。


以上が『ありがたいこってす!』の筋書き。

つまり、「あなたの今の状態は嘆くべきものではなく、実は幸せかもしれないよ」というメッセージが込められた物語である。

この本の教訓は「今の状態をありがたいと思って感謝せよ」であり、そのための具体策は「不満に思ったらもっと大変な状態に身を置いて、元に戻せ」ということになる。

狭かったらもっと狭くしろ
からかったらもっと辛くしろ
寒かったらもっと寒くしろ

そんな教えである。

困っている人を助けようとする側からすると、「困っている人に更に地獄を見せる」やり方なので、あまりお勧めはできない。

お勧めはできないが、図らずもそういう体験をして、「ああ、元々の状態は、自分にとって良いものだったんだ」と実感するのは、決して悪くないと思う。

例えば、海外旅行もその筆頭で、日本がダメダメだなと思って海外に行くと、日本の良いところばかりに気がつくようになるというのも、その一種。

良いレストランに行ったはずが、「結局自分の家のご飯が一番だなぁ」と思うのも、似たようなもの。

いろんな体験をして、今の状態に戻ったときに、「ああ、これで十分幸せ」と思えるなら、僕はそれが理想的な『ありがたいこってす現象』だと思う。

ちなみに、この本は、物語自体も興味深いけれども、『ありがたいこってす!』というタイトルがなんとも素晴らしい。
元々はユダヤの民話なので、「ありがたいこってす」という言葉は和訳されたものである。
なのでこれは、渡辺 茂男さんという翻訳家の功績と言える。
これが「ありがとう」とか「ありがたい」とかに訳されていたらよくある本という感じだが、「ありがたいこってす」としたことで、独特のユニークさが出ている。

嫁に『ありがたいこってす!』の物語を伝えると、嫁もことあるごとに「あ、これもありがたいこってすだね」と日常の中にある「ありがたいこってす」を見つけるようになり、今我が家には「ありがたいこってす精神」が溢れている。

先日僕は、海外出張中にコロナ陽性になり、異国の地に幽閉されながら結構な症状に悩まされたのだが、そこから健康体に戻り我が家に帰ったとき、過去最高の「ありがたいこってす!」を実感したのであった。


おわり

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