雨の中を歩く。[超短編小説]
雨が降っている。
バケツをひっくり返したような、という表現があるけれど、まさしくそれだ。
昔から雨は嫌いだった。どんよりジメジメしていて、気分は暗くなるし、おまけに頭痛もする。僕にとっては最悪なことばかりだ。
雨が好きな人なんているのだろうか、なんてそんな極端なことを思いつつ、僕は傘を差して雨の中を歩き始めた。
………ああ、そういえば、昔付き合っていた彼女は、雨が好きだと言っていたっけ。
「海の水が蒸発して、雲になって、雨となって地上に戻ってくる。雨が降るとね、私は今地球に生きてるんだなって思うの」
あのときの彼女の声が雨の中から聞こえた気がした。当時の僕が、前世宇宙人だったの?と聞くと、
「そうだよ、知らなかった?」
と彼女にあっけらかんと返されて、思わず笑ってしまった記憶がある。
あの人とのなんともない会話を思い出せるなら、雨もまあ悪くない。
そんなことを思いながら、家に帰った。
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