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バレンタインとホワイトデー•後編[短編小説]

親友に告白された。
私は、どうすればいいんだろう。

バレンタインの日に雪菜に告白されてから、私達は一言も話していない。
一度話しかけようとしたのだけれど、私が雪菜の席に近付いた途端、さっとどこかに行ってしまった。
避けられている、とすぐ分かった。
雪菜はあの日、「私と、友達になってくれてありがとう」と言っていた。
その言葉の意味は、もう友達ではいられない、ということなんだと思う。
『雪菜は私に告白して、その気持ちを私は受け取れなかった。友達じゃなくなるなんて、当たり前だよ。』
そう自分に言い聞かせている。
でもずっと、雪菜のあのときの表情が、頭から離れない。泣きそうなのに、すごく優しく笑っていた、私の友達。

私と雪菜はよく一緒にいたから、全く話さないこの状況は、クラスでも目立っていたみたいで、バレンタインから1週間経った昼休みに、仲が良いクラスメイト達にすごく心配された。喧嘩したの?とか、何かあった?という問いにどう答えればいいのか分からない。でも心配してくれているのに黙っているのはなんだか申し訳ないから、何か言おうと思えば思うほど何て言えばいいのかますます分からなくなってしまう。
「すごい悲しそうな顔してるよ?大丈夫?」
とクラスメイトに言われて、私はやっと自分の表情に気づく。慌てて笑顔を取り繕った。
「ごめん、大丈夫!ただ、やっぱり今の状況は、ちょっとキツい、かな…」
とりあえず今の気持ちを正直にいうと、「そうだよねー」とクラスメイト達は顔を見合わせる。
「私たち、茜と雪菜の間に何かあったかは知らないけど、雪菜の態度はさすがに良くないよ。今日だって、茜が雪菜の席の近く通っただけで雪菜どっか行ってたし」
「それ私も思った!茜のことあからさまに避けてたよね…。前から思ってたけど雪菜ってあんまり笑わないからちょっと怖いんだよね。茜が仲良いから話すようになったけど…。」
「茜が優しいから、今まで雪菜と仲良くやってこれただけじゃない?あんなに冷たい態度取る人と仲良くする必要ないよ」
「違う、私が悪いの!!」
思わず私は叫んでいた。
「雪菜は悪くない。私が悪いの」
雪菜は勇気を出して私に自分の気持ちを伝えてくれた。私が、その気持ちを受け取れないことを分かった上で。
雪菜は、私に伝えてくれた。好きだよって、私に言ってくれた。
あの優しい笑顔で。
私は、雪菜の気持ちを受け取れなくても、受け止めたい。
「みんな、心配してくれてありがとう。でも、雪菜にそういう行動をさせてるのは、わたしのせいなの。だから…だから、雪菜としっかり話す。ちゃんと、自分の気持ちを言う。えっと、そうだ、明日言う。クラスだと避けられるから、雪菜が帰ってる時に無理やりでも話す!」
急に叫んで、そして結論づけた私に、クラスメイト達はぽかんとしていたけど、しばらくしてハッとしたように
「分かった、がんばれ!」
と言ってくれた。

その日の帰りは、珍しく彼氏の優斗くんと一緒に帰った。今日と明日は体育館のメンテナンスがあるらしく、優斗くんが入っているバスケ部は部活が無いらしい。
「だから、明日も一緒に帰らない?」
優斗くんの問いに心が少し揺らいでしまった。
「ごめん、明日は友達と話さなきゃいけないことがあるから、一緒に帰れない」
それでも、雪菜と話すと決めた自分の決意を守るためにしっかり断る。
優斗くんはちょっと面食らったように目をぱちぱちしていたけれど、
「りょーかい。また一緒に帰れるとき帰ろ」
と言ってくれた。
優斗くんは一呼吸置いて、
「最近ちょっと元気なかったの、その友達となんかあったから?」
と言った。急に核心を突かれて、びっくりした。
「そうだね、そんな感じ。…でも、大丈夫。明日、ちゃんと話す」
決意を込めて言うと、優斗くんは、
「茜なら大丈夫!がんばれ!」
と、とびっきりの笑顔で言ってくれた。その笑顔を見て、思わずキュンとする。好きだなぁって思う。
と同時に、あの雪菜の表情を思い出して、胸がギュッと、苦しくなった。

翌日、雪菜が通る帰り道に先回りして待っていた。こうでもしないと、雪菜は逃げる。
緊張しながら待っていると、雪菜の姿が見えた。来た!
「雪菜!!」
叫ぶと、雪菜はギョッとして私を見た。緊張しすぎて雪菜とだいぶ距離があったのに呼んでしまってちょっと焦る。雪菜は少しの間フリーズしていたけど、ハッとして、私と反対側の方向に逃げた。
「待って!」
雪菜を追いかける。雪菜は走っていたけど、足は私のほうがだいぶ速いし、というか雪菜は運動はからっきしだ。わりとすぐ捕まえることが出来た。
「な…なんで?どうしたの…?」
息が絶え絶えな雪菜に対して、私はちょっと息を整えて、
「はい、これ」
と、リボンが結ばれた箱を手渡す。
「…何、これ?」
やっと落ち着いた雪菜に対して、私の心臓は緊張でドキドキしている。
「お返し。…だいぶ早いけど」
雪菜は驚いたように、私を見た。
「雪菜、私に好きって言ってくれて、ありがとう」
「…うん」
「あのとき、雪菜、『困らせてごめんね』って言ったでしょう。私、『困ってなんかないよ』って言ったと思う。でも、正直困ってたし、戸惑ってもいた。そう思っちゃったのは、雪菜のことを恋愛対象として見てなかったからだと思う。…きっとこれからもそういう対象としてはみないと思う」
「うん」
雪菜は目を伏せる。もう雪菜は私の気持ちなんて聞きたくないかもしれない。もうやめて、そう思ってるかもしれない。でも、私が1番伝えたいのは、ここじゃない。聞いて、雪菜。
私は雪菜に、伝えたいことがある。
「でもね、雪菜。こんなこと言って、信じてもらえないかもしれないけど、私、雪菜が好きって言ってくれて…告白してくれて、すごく嬉しかった。私にくれたチョコ、あれ雪菜が作ってくれたんだよね?すごく美味しかった」
雪菜は伏せた目をそっとあげて、私の目を見た。相変わらず綺麗な目をしていて、好きだと思った。
そう、私は、
「チョコ食べながら、雪菜が私に向けてくれた気持ちとは違うけれど、雪菜のことほんとに大好きだなって思ったんだよ」
雪菜の綺麗な目から、涙が溢れる。私も言いながら涙が出てきた。声が震える。
「だから…だからね、雪菜がよかったら、私と友達になってほしい。今すぐじゃなくていいから、1年後とか、卒業してからとか、タイミングはいつでも良い。だから…えっと、」
言葉にならない。どうしよう、どうしよう…。
「うん」
雪菜がそっと、私に言う。
「友達になろう。…確かに、今すぐは無理かもしれないけど」
雪菜の顔を見ると、雪菜はすごく優しい微笑みを浮かべていて、それを見て、またさらに私は泣いてしまう。
「茜、ちょっと泣きすぎだよ」
ふふ、と雪菜が笑う。私はなんとか泣き止もうとしたけど、やっぱり無理だ。泣いてしまう。雪菜は優しい笑顔で、私が泣き止むのをじっと待っててくれた。しばらくして、私がなんとか落ち着いたのを確認すると、雪菜はほっとしたように笑う。そして、
「また明日」
雪菜は、そっと私に言って、道を歩き出す。
私は振り向いて彼女の背中を見る。彼女は、道を曲がる前に私のほうを見た。
雪菜は、手を振ろうとして、やめて、そして意を決したように大きく私に手を振って、
「また明日ー!!」
と言った。雪菜の大声初めて聞いたなあ、と思わず笑いながら、
「また明日!!」
と私も手を振る。
雪菜は手を下ろして、曲がり角に消える。私も手を下ろす。そして私も歩き出す。
明日を、そしてまた彼女と笑い合ういつかの日を楽しみにして。

end

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