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バレンタインとホワイトデー•前編[短編小説]

好きな子に、彼氏ができた、と報告された。
その子は前々からモテていたし(本人は気づいていないようだったけれど)、少し前に気になる人がいると相談されていたから、とうの昔から覚悟だけはできている…と思っていた。
でも、今の私は布団にくるまって、嬉しそうだった彼女の顔を思い出すことしかできない。それが、辛かった。勝手だけれど。

翌日、完全に寝不足の自分を奮い立たせて、なんとか高校に行く。教室に入った瞬間、ニヤケが抑えられない彼女…茜の姿が目に入った。いつもはすぐそばに行って声をかけるのに、今日は茜のほうに行こうとは思えない。
クラスメイトは、明らかに浮き足だっている茜の様子に興味津々だ。明るくて、優しくて、どこかほっとけない茜は、みんなに好かれている。
ちなみに私は、茜と友達でなかったらクラスに馴染めなかったと思う。茜には、もうちょっと笑顔で話せばいいのに、とよく言われる。
そんなことをつらつらと思いながら私が席に着いていると、痺れを切らした女子2人が茜に話しかけていた。それを聞いた茜はちょっと顔を赤くさせながらこくん、と頷く。

『彼氏』は部活があるということで、茜と私はいつも通り一緒に帰っていた。
「あんなに質問攻めされると思わなかったから、めっちゃ疲れた〜。雪菜も質問してくるし!」
「ごめんごめん、ちょっとからかった」
あの後、茜は休み時間のたびに2人から彼氏のことを追求され、それを聞きつけたほかのクラスメイトも加わり、ちょっとカオスな状況になっていた。
慌てている茜が、どうしようもなく可愛くて、でもずっと胸が苦しかった。
茜はしばらく拗ねていたが、不意に私をじっと見つめてきた。私は茜の目を見る。相変わらず綺麗でまっすぐな目をしていて、好きだと思った。
「今日、雪菜元気ないよね?どうかした?」
唐突に聞かれて、言葉が出ない。
「…なんで?」
絞りだすように私が聞くと、別に根拠はないけど、と茜は目線を前に向けながら、
「なんとなく、そう思ったんだよ。大丈夫?」
「…うん、大丈夫だよ。ありがと」
そう言っても、茜はまだ心配そうだった。でも、私がそれ以上何にも言わないので、ふうっとため息をつくと、
「分かった。そういうことにしてあげる」
と言ってくれた。

家に帰ってしばらく経つと、茜からLINEが入っていた。
『来週、バレンタインだからお菓子作って持ってくねー。苦手なものとかない?」
バレンタインのことなんて、すっかり忘れていた。
お菓子は素直に嬉しい。でも、彼氏にもあげるんだろうな、と当たり前のことを思うだけでなんだか胸がギュッとなった。
「何でも食べれるよ。楽しみにしてる。」
そう送って、私はスマホの電源を切る。
茜に私の気持ちを伝えたら、どうなるんだろう。ずっとずっと前から、考えていたことではある。でも、私はただの友達で、茜が私を恋愛対象としてみないことくらい分かる。今の関係性が変わるのはいやだから、過去の私は、伝えない、という選択肢を取った。
でも、このまま今の私は耐えられる?
茜の幸せを、心から祝える?
好きだと伝えたいと、初めて思った。

バレンタイン当日。私は、朝早く茜を学校に呼び出した。帰りは、彼氏と帰ると茜に言われていたので朝にした。今日、私は告白するつもりだ。茜に私を好きになってほしいとか、そういうのではない。ただ、気持ちを伝えたい。
2月の朝の教室は肌寒いのに、緊張して手に変な汗をかいている。ドキドキする。怖い。やっぱり告白なんてやめようか、でも伝えたい。何度目か分からない思考のループに陥る。怖い。気持ち悪がられたらどうしよう。嫌われたら。でも…
廊下から足音が聞こえてきた。やばい、きっと茜だ。反射的に廊下を見ると、茜と、その彼氏がいた。
ヒュンっと胸が冷たくなって、息が止まる。
見たくないのに、目が離せない。
2人は、とても幸せそうに話していた。

「おはよー!雪菜、朝早くどうしたの?」
「…彼氏と、朝一緒に来てるんだね」
「うん、そうだよ。帰りは一緒に帰れないことが多いから」
「そっか。そうだよね…」
「どうしたの?最近、やっぱり雪菜元気ないよ」
私は茜のまっすぐな目を見つめた。
「茜。好きだよ」
「え、何、急に!照れるなー」
「私、茜のこと恋愛的に好きなんだ」
「…え?」
「今日は、それを伝えたかったの」
茜はポカンとしている。その間に、私は手作りしたチョコを鞄から取り出した。
「茜に、私の気持ちを知ってほしくて今日は呼んだの」
そっと、チョコを差し出す。
「受け取ってほしい」
茜は、私を見つめる。可愛いと思った。
じっと見つめ返すと、茜は視線を逸らして、チョコを貰ってくれた。
「ありがと」
「うん…」
「困らせてごめんね」
「困ってなんかないよ」
「茜」
「何?」
「私と、友達になってくれてありがとう」
「…」
「ありがとう」
廊下がざわつき始めた。そろそろみんなが来る時間だ。
私は自分の席に着いた。

To be continued…

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