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[短編小説] プラネタリウム

朝、目が覚める、と同時に、高校に行きたくないと思った。そんなことを思うのは初めてで、どうすればいいのか分からない。
とりあえず母に言うと、やはり驚いていたようだけど、1日くらいなら休んでもいいんじゃない?とおおらかなことを言ってくれたので休むことにした。

さて、休んだはいいものの何をすればいいのか分からない。家でぐうたらしようか、と思い10分ほど寝転んだけど、今ごろみんな学校に行っていると意識をしたらなんだかソワソワしてしまって結局起きてしまった。
しばらく考えて、土日に行くとすごく混んでいるプラネタリウムに行こうと思った。平日なら絶対空いているだろうから、いつも以上に楽しめるかもしれない。
などと理由をつけたが、結局、このソワソワをなんでもいいから早く無くしたいだけかもしれない。

最寄り駅に着いた。到着時刻より早く着いたので少し待つ。こうやって、ただ自分の楽しみのためだけに電車に乗るのは久しぶりでなんだか嬉しい。先程とは違うソワソワが身体を満たしてきた。
来た電車に乗って、窓の外の風景を見る。通学と同じ電車だから同じ風景のはずなのに、今見る電車の風景はいつも以上に輝いて見えた。

プラネタリウムに着いて、チケットを買う。「この人、ズル休みだな」と受付の人に思われたら恥ずかしいと今更ながら感じたけど、受付の人はプロなのでそんな態度は微塵も見せず、完璧な笑顔で対応してくれた。
プラネタリウムの中に入って、スタッフの人の説明をなんとなく聞きながら星々を見る。見ながら、小学校の時、星を見ることが大好きだったことを思い出した。星座をまず覚えて、それを探すのが好きだった。高学年になるにつれて、ますますハマって、星座を構成している星の名前も覚えた。
でも、今はもう思い出せない。説明を聞いたってさっぱりだ。

プラネタリウムを出て、また電車に揺られている。今度は帰るために。行きの窓の風景の方が綺麗だと思った。
眠くなりながら、またまた今更ながら、何で高校に行きたくないと思ったんだろうと考えた。
いや、もう私はわかっているはずだ。そっと昨日のことを思い出す。

私は数学の授業を受けていた。数学はさっぱりで、なのでせめて授業だけでもと真剣に受けていた。
私の後ろの子が当てられて、間違った答えを言ったらしい。そして、先生が言った。
「こんなのも分からないのか」

その先生は普段からそういう類のことを頻繁に言う人で、最初の頃こそ嫌な気持ちになったものの、もう半年以上経ってそういう言動にも慣れて何も思わなくなった、と、思っていたのに。
昨日の私は、すごく嫌な気持ちになったのだ。自分に言われた言葉でもないのに。もしかしたら、この半年間、私はずっと慣れたフリをしていただけなのかもしれない。

電車から降りて家までのんびりと歩く。もうだいぶ日は沈んでいて、1番星が輝いていた。あのスタッフさんはなんという星だと言っていたっけ?と考える。…が、全く思い出せない。昔の私ならすぐに分かるのにと思わず苦笑した。
明日から、またいつも通りの明日が始まる。
また星の名前を覚えようと思った。

end.

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