セラムン二次創作小説『Summer Festival』


夕方、仕事から帰って一段落していると会う約束をしていないにも関わらず、美奈子がやって来た。


「公斗!夏祭り行くわよ~♪」


はぁ?夏祭り?いきなり何でだ?と思いながら美奈子を見ると浴衣を着て現れた。


「浴衣着てるのか?まさか自分で着たのか?」

「そうよ!って言いたい所だけど、自分で着付け出来ないからレイちゃんにやってもらったの♪」


そんな事だろうと思ったが、レイさんにまた迷惑をかけたのかと申し訳ない気持ちになった。


「公斗も浴衣着る?……って持ってないか?」

「ああ、持ってないな」

「じゃあこの前パパから貰った甚平さん着ていけばいいじゃない」

「ああ、あれか。部屋着にしてるんだが」

「いいじゃない!外出でも全然大丈夫よ!ガースー君も甚平着てるし」

「はぁ?何でここで和永の名前が出て来る?」

「いっけなぁーい、言ってなかった!レイちゃん達と一緒に行くの!Wデート♪」


おいおい、随分と楽しそうだな!

美奈子以外は誰得でしかない奴だぞ。

きっと美奈子がいきなり夏祭りあるからレイさんを誘い、そこにいた和永がレイさんより先に行きたがって今に至ると言った所だろう。

なるほど、だからレイさんに着付けして貰ったんだな。


「それを早く言え!お前はいつも肝心な話は後手後手だな……」

「ごめんごめん!外で待たせてんの!甚平さんに着替えたら行くよ!」


突然やってきたかと思うと浴衣姿で、しかも和永とレイさんを味方につけて行かざるを得ない状況に固めてきた美奈子に癪だが少し感心してしまった。

そして言われるがまま甚平に着替える。

まるで美奈子の手によってコロコロと転がされている様な気にさえなる。

夕飯が面倒だなと思っていたから夏祭りに行くならちょうどいいとさえ思える様になって来た。

楽しみにしている訳では無いぞ!断じて楽しみでは無い!美奈子が行きたいって言ってきたから仕方なくだ。


「それじゃあ行くか」


和永は兎も角レイさんを待たせる訳には行かないだろう。

美奈子が言っていた通り、2人して外で待っていた。


「遅くなってすまない」

「いえ、美奈が無理を言ったのは明白ですから、気にしないで下さい」

「まぁ、行く事決まったのも急だったしな」


流石はレイさん、美奈子の親友だけあって美奈子を熟知しているようだ。肝も座っている。

お嬢様学校に通っている事もあってか礼儀正しい。

対象的に和永はぶっきらぼうだ。なんたってコイツなんだ?俺としては彩都が良かったぞ。


「甚平と浴衣!趣があって良いなぁ~やっぱり日本の夏はこうでないとな!」


何が趣だ。和永に趣が分かるとは思えない。

しかし、夏祭りのお陰で美奈子の浴衣を見られたのは良かったが。和永と言うハズレくじまでついてくるのは誤算だった。


「夏祭り、楽しむわよ~♪」

「おー!」


いやいや、美奈子がはしゃぐのは分かるが何で和永まで楽しそうなんだ……。

テンションが同じなのは分かっていたが、いざ目の前に突きつけられるとシンドくなる。

そしてその隣で俺と同じでローテンションなレイさんを見て余計テンションが下がる。息苦しい。


「はしゃいでないで行くぞ」

「はーい♪」

「了解!」


まるで引率の先生か、とツッコミたくなるほど美奈子と和永が子供のように返事をする。

そうかと思えばさも当然のように美奈子は俺の腕に手を絡めて密着してくる。今更だが見られているとなると恥ずかしい。 和永達を見ると手を繋いでいた。何と指を絡ませ恋人繋ぎだ。中々やるな。


何はともあれ夏祭りの場所へと向かうことになった。

***

麻布十番祭りへと無事到着した俺たちはまずどんな露店が出ているのか、一通り見て回ることにした。

と言っても目新しいものは特に無く、普通にたこ焼きだの焼きそばだのフランクフルトだの金魚すくいだの射的だのとベタな物ばかりだった。

それでも美奈子は楽しそうにはしゃいでいる。何が楽しいのか?

そしていつの間にやら美奈子は俺から離れ、レイさんとペアになり、俺は自ずと和永と組まされると言う何とも地獄絵図を味わう羽目になる構図になっていた。


「何だよ?俺だって不服だよ!」


チラッと嫌な顔をしながら和永を見ると心を読み取ったのか俺より先に口を開き不満を言ってきた。


「まぁこーなるだろうとは予想してたけど、キツイよなぁ?」

「ああ、なんたってお前と行動を共にしないといけないんだ」


一体どんな罰ゲームなんだと目の前ではしゃぐ美奈子と普通のテンションを保っているレイさんを見守りながら思っていた。


「公斗、たこ焼き食べたい!」


当たり前のようにお金を出して美奈子にたこ焼きを渡した。


「はい、アーン♪」

「うわ、アッツ!自分で食える……」


和永達が見てる前で何て周知を晒させるんだ。

腕組みも中々にハードル高かったのに、アーンとは……。四天王リーダーの威厳が無くなる。


「遠慮しなくていいから!レイちゃん達もやってるし恥ずかしがらなくてもいいのよ♪それに仕事終わりで空腹でしょ?」


完全に楽しんでやがる。

和永達を見ると美奈子の言った通り食べさせ合っている。和永は兎も角、レイさんのキャラと違う。美奈子と和永と一緒にいすぎてキャラ崩壊してしまったのだろうか?……何かすまん。

羞恥はあるもののせっかくなので美奈子のアーンを受け入れる事にした。


「ん、熱いが美味いな」

「でっしょ~♪たこ焼きって美味しいのよ!」

「何故お前が作ってもないのに威張るんだ」

「良いじゃない!せっかくの夏祭り、楽しまなきゃ損でしょ?」

「それもそうだが……」


何か丸め込まれている感があるが、流石は年内脳内パリピなだけあってこういったイベント事を最大限楽しんでいるようだ。

イベントを楽しむ天才と言ったところか。

この位勉強も頑張ってくれたらと思ってしまう。


「次はお好み焼きよぉ~♪」

「フランクフルトもトウモロコシも食べなきゃ」


次から次へと食欲を優先して食べ歩く。

何とも逞しいが、その度に俺が奢っている。

上手い具合に使われてる気がしてならない。

まぁ俺も半分食べているから良いのだが。

財布は俺だが決定権は俺にはない。それだけが不満だった。


「すっかり美奈子のペースに飲まれてんな、リーダー♪」

「放っておけ!それにお前が美奈子呼びするな!許さん」

「はいはい、嫉妬で心狭い男は嫌だねぇ」


俺が美奈子にペースを崩されている様を楽しそうに言ってくる和永にイライラして彼女が呼び捨てにされていることが気に食わず、つい突っかかってしまった。俺らしくなく、自己嫌悪に陥る。

和永ごときにイライラするなんて俺も修行が足らん。


「公斗、今度は射的よ!」


一通り食べて満足したのか、今度は射的をやりたいと言ってきた。

恐らくまた目的の物を当てられるか対決したいのだろう。


「出来るのか?」

「この美奈子様の右に出る者はいないわ!」

「浴衣姿で本領発揮出来ないんじゃ無いか?」

「公斗こそ、甚平のせいにしないでよね!」


売り言葉に買い言葉でやはり対決するに至る。いつもこんな感じで何かと競いたがるのはどうにかならないだろうか?

女ならば取れないから取ってぇ~と男に花を持たす気は無いのだろうか?


「うわぁ、色気ねぇカップルだなぁ」

「そっちはどうなんだよ?」


射的対決で白熱バトルを繰り広げていると後ろから引いている和永の声が聞こえてきた。

結局、2人ともきっちり弾の分回収するに至り、勝敗はドローとなった。

その横で出店の親父は儲からないと嘆いていた。俺と美奈子がすまん。



「今度は金魚すくいやりたい!」


繊細さの欠片も無い美奈子が救えるとは到底思えない。

すぐポイの紙を破いて嘆くオチになりそうなのが予想出来るだけに金の無駄な気がする。


「すぐ破けても2度は無いからな?」

「何で破く前提で話進めてんの?酷くない?」


ギャイギャイ言い争っている横でレイさんが静かに金魚すくいをし始めたのを横目で確認した。

何と器用に涼しい顔で金魚を次々掬って行くのを美奈子との小競り合いをやめ、見入ってしまった。


「レイ、上手いな~」


和永も感心している。

美奈子も感動している。


「負けてられないわ!私たちもいっぱいすくうわよ!」

「だから、お前にすくえるのかって言ってんだよ!一匹も釣れず泣きを見ても知らんならな?」

「見てなさいよ!美奈子の華麗な金魚すくいの技を」


結局自分で金を払い、始めてしまった。

どんな腕前かと、これだけ豪語したんだからさぞ上手いのだろうと興味津々で見ていると案の定、と言うか思っていた以上に酷い有様だった。

力任せに豪快に掬ってポイを秒でダメにした。これは見ていられない。


「あーはっはっははは、美奈子、お前下手過ぎだろ?」

「笑ったわね?そんなに言うならアンタはどうなのよ!やってみなさいよ!」


和永が悲惨な状況に耐えきれず人の彼女を大爆笑でバカにしてやがる。

場所や人が多くなければ殴っていたが、俺も大人だ。TPOをわきまえて我慢してやったが、美奈子は流石に腹が立ったらしく言い返しながらシバいていた。……怖っ。


「いってぇ……金魚はすくうもんじゃない!黙って鑑賞するもんだ!」

「カッコつけて言ってるけど、ただ下手なんでしょ?」

「何とでも言え!」


減らず口の2人の喧嘩は中々終わらず、ただただ煩いだけだ。


「俺が掬ってやるから黙れ!」


低い声で凄むと2人の喧嘩は止まった。

先程まで崩壊寸前だった四天王リーダーとしての威厳を何とか保った様でホッとする。

と同時に金魚をすくうと言う試練が降りかかる。

実はこの手のものは俺自身もあまり得意とは言えない。

流石に美奈子ほどでは無いが、苦手である。

今の勢いで明らかにハードルが上がってしまったように思う。

……2、3匹掬えれば良いか。最悪救えなくともレイさんに何匹か譲って貰えるよう交渉しよう。


「えいっあぁ……」


やはりこう言う繊細なものは苦手だ。

頑張るけれど、まるで嘲笑うかのように俺の手から逃げていく金魚に若干イライラする。

イライラし出すと余計にすくえず、結局無情にも一匹もすくえずにポイは破けてしまった。


「フッ口ほどにもねぇな爆笑」

「ほぉんと、カッコつけたの何だったの?期待値爆上がりしてたのに、返して欲しいわ!」


結局保ったかと思った四天王リーダーの威厳は崩れてしまったみたいで落胆する。何故こうなったんだ?


「仕方ないだろう!こう言った類のものは苦手なんだ」

「あんなに威張り散らかしといて苦手って……」


言い争っている横で黙々とマイペースを保って金魚すくいをしているレイさんはポイを破ること無く10匹以上掬っていた。

和永と美奈子に慣れているのか2人のペースにはめられず自分を保ち、尚且つ金魚すくいをしている姿がとても羨ましく思う。修行の成果なのか?俺の修行が足りんのか……?


「あなた達、下手ね」


一段落したレイさんは涼しい顔で笑ってこちらのやり取りを見ていた。


「レイちゃんいっぱいとってる!」

「レイにこんな特技があるなんて知らなかったな……」

「精神を集中すればすくえるわ」


当たり前のように言ってきたが、精神を集中しても無理なものは無理だろう。

それを1番出来そうもない2人に言っても説得力がないと思うが……。


「このいっぱいの金魚どうするの?」

「そうねぇ、亜美にでもあげようかしら?」

「私にも頂戴!」

「あんたの家にはアルテミスがいるから無理でしょ?」

「大丈夫よ!公斗の家で金魚飼うから」

「勝手に決めるな!」

「いいじゃない!毎日世話しに行くから、ね?」

「……まぁ、それなら仕方ないな」


毎日美奈子に会える口実が出来たのは単純に嬉しかったが、面倒事が増えたのは誤算だった。

和永を見るとニヤニヤして何やら察した様な顔でこちらを見ている。

さしずめ、美奈子に甘いと思っているのだろう。別にいい。その通りだからな。


「さて、今度は綿菓子とりんご飴と明日の分の食べ物買って帰りましょ♪」


一頻り遊んだ所でまぁまぁな時間になったこともあり、満足した美奈子はデザート系やお菓子系の屋台を次々とハシゴして行く。

その度に俺はキャッシュマンと化して美奈子の代わりにお金をはらい続けていた。


「リーダー、美奈ちゃんにめっちゃ振り回されて投資させられてんのな?爆笑」

「うるせぇ」

「いやぁ、良かったわ!リーダーも普通の男で♪めっちゃ惚れてんだな!」

「お前も何か奢ってやるからこの事は他の2人には内緒だぞ!」

「俺は美奈ちゃんみたいに安くないんで!また4人でどっか食べいこうぜ」


またこいつらとWデートをしなければいけない展開になってんだ。面倒臭い提案をする奴だな。


「レイは美奈ちゃんがいたらいい顔するし、楽しそうなんだよな~悔しいけどな。お前も気づいてるだろ?」

「まぁ、そうだな」


そう、美奈子もまたレイさんといる時は楽しそうにしている。癪だが和永の言う通りだ。

俺といる時とは違う顔を見せる。悔しいが俺にはあの顔は引き出せない。


「今日はみんなありがとう♪急に付き合わせる事になっちゃって」

「いつもの事だから大丈夫よ」

「俺らも楽しかったしな!」

「じゃあ俺は美奈子を送って行くから、お前もレイさん送り届けろ!気をつけてな」

「ジジくさいな笑」


そう言ってやっと2人と別れ、美奈子を送る為に歩き出した。


「いったぁ~い!」

「どうした?」

「馴れない下駄履いてウロウロしたから靴擦れしたみたい」


浴衣姿だからおんぶするわけにはいかず、お姫様抱っこをしてやる事にした。


「うわぁ、な、な、何するのよぉ~」


突然のお姫様抱っこに驚いた美奈子は悲鳴を上げてジタバタし始めた。


「黙って抱っこされていろ!靴擦れが痛いんだろう?」

「そ、だけど……」


流石にお姫様抱っこには慣れていなかったようだが、一頻り暴れた美奈子は借りてきた猫のように大人しくなった。


「重いな」

「ひっど!りんご飴とか持ってるからよ!」

「ハハッ冗談だ」

「バカ、公斗!……お姫様抱っこ、初めてなんだからね!」


バカにバカと呼ばれるのは癪だが、その後の初めて発言に俺は喜んだ。俺も何て単純な男なんだ。


「はい、到着しましたよお姫様♪」


愛野家の前に到着した俺は、美奈子を下ろすと跪き、手の甲にキスを落とした。

俺の家へと来た時から前世でほとんど見られなかった貴重なドレス姿と色味や雰囲気がとても似ていて、自然と出た動作だった。


「あ、りが……とぉ」


やっと甘い雰囲気になれたが、同時に愛野家の前の為、普通にキスする事もはばかられた。父親がみていないとも限らない。


「明日から金魚の世話、しに行くからね!」


この前渡した俺の家のスペアキー(通称合鍵)をヒラヒラさせて見送ってくれた。


「ああ、屋台で買った広島焼き、一緒に食うか?」


俺も広島焼きの入った袋を持ち上げて答える。


「うん、待ってるね!」


今日1番の笑顔の美奈子に見送られ、満足した。


そして次の日から金魚の世話をしに俺の家に通う日々が始まった。

勿論、美奈子だから世話も一悶着以上の事をやらかすのだが……。





おわり



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