見出し画像

アニメ「86―エイティシックス―」誰も人が死なない、あまりにも残酷な物語。

この記事は2021年8月25日に公開した記事を再投稿したものです。

アニメ「86―エイティシックス―」とは電撃文庫より刊行されているライトノベルを原作とした、2021年春アニメである。

ボクはまだ原作を未履修のため、今回はあくまでもアニメに絞って話をしたいと思う。

2021年春アニメについては別記事で「Vivy -Fluorite Eye's Song-」の話をすでにしていて、こちらも結構しんどい作品だったのだが、「86―エイティシックス―」は事前にチェックしていたものの、最終的に視聴を見送りにしていた作品だった。

今回はそんな「86―エイティシックス―」という作品を視聴して衝撃を受けたので、どんな作品なのか作品の設定とともに自分なりの目線で解説をしていきたいと思う。


※アニメ放送分のネタバレを含むので注意。気になる方はこの時点でぜひ視聴してみて欲しい。



サンマグノリア共和国という欺瞞に満ちた物語の舞台

共和国は9年前に隣国である帝国から宣戦布告を受け戦争状態に突入した。帝国が開発した自律式無人戦闘機械、通称レギオンに対抗するため共和国は7年前に共和国製無人機ジャガーノートを開発し、現在では戦死者0人という報道が毎日されている。

帝国自体はレギオンの暴走によって滅んだと思われており、レギオン自体もまた中枢処理装置の寿命によってあと2年で稼働できなくなるとされており、あと2年防衛すればこの戦争が終わると思われていた。その結果、多くの将校が飲んだくれになる程度には、共和国内は戦時下でありながらも平和ボケした状態が続いていた。


しかしその日常には裏がある。共和国はかつて戦時特別治安維持法を施行したことにより、アルバと呼ばれる白系種以外の有色種から市民権を剥奪。強制収容所と呼ばれる共和国全85区の外側にある、存在しないはずの86区に集められ、エイティシックスと呼称された人々は、人型の豚として人間未満の扱いを受けることとなり、半ば強制的に兵役に就くこととなる。

一方、アルバの軍人たちは壁の内側から指揮管制官(ハンドラー)と呼ばれる指揮官として舞台を率いているのが現実である。つまり、選ばれた人種の人々のみが人間としての暮らしを享受し、その裏で人間として扱われなくなってしまった元国民たちが最前線で国を守るために戦っているのだ。


この作品はそんなアルバ側のハンドラーである少女と、戦場の最前線で戦うエイティシックスの少年少女たちの、誰も人が死なない、あまりにも残酷な物語だ。


繰り返しになるが、アニメ「86―エイティシックス―」とは電撃文庫より刊行されているライトノベルを原作とした、2021年春アニメである。


国を守るエイティシックスたちの現実

毎日繰り返される戦死者0人という報道もまた歪んだ真実のひとつだ。ジャガーノートは無人機という触れ込みをされているものの、それは国が認める人間は乗っていない、というもの。

人間未満の扱いを受けるエイティシックスたちは情報処理装置(プロセッサー)と呼ばれ、ジャガーノートの搭乗員となっているのが現実だ。人間ではなく部品扱いをされたエイティシックスたちは名前ではなくコールサインで呼ばれ、ハンドラーに本当の名前を知られることもないまま戦場で命を散らしているのだ。


現在ではすでにエイティシックスの殆どが戦死しており、子供世代しか残っていない。それでも容赦なく徴用され、ジャガーノートに乗せられ戦いに向かっている。

エイティシックスの兵役義務は5年とされており、5年間生き残った者は市民権を得て国内で暮らすことが許されている。しかし実際5年間も生き残るのは非常に厳しい過酷な戦場が待ち受けている。

だがそれ以上にこの5年間の兵役というものは、エイティシックスを戦いに駆り出すための口実に過ぎない。戦場で何度も生き延びたエイティシックスはより過酷な戦場へと移され、それでも生き残るような者たちはレギオン支配域深部への特別偵察任務という体裁で、任務終了と同時に兵役を免除される。

この特別任務は後退することを許可せず、ひたすらに前進し続けろというもの。エイティシックスにとっては事実上の死である。そう、エイティシックスたちは死ぬまで自由を与えられることはないのだ。


エイティシックスへの非人道的な人種差別について、すべてのエイティシックスが死ぬまで戦場で使い潰すことで共和国は黙殺するつもりなのだ。そんな人種は存在しなかったのだから差別もまた存在しなかった、という体裁で。遺体の回収や墓を作ることを禁止しているのもそのためであり、人間扱いすることを禁じられている以上の闇を感じる部分である。


繰り返しになるが、アニメ「86―エイティシックス―」とは電撃文庫より刊行されているライトノベルを原作とした、2021年春アニメである。


敵であるレギオンの真実

先述した通り、レギオンには寿命がある。レギオンが暴走した時の保険として帝国が設定した、中枢処理装置が自壊する変更不能の寿命だ。

これらの情報を元にして、共和国はあと2年戦えばこの戦争に勝利できると考えている。ちなみにこの情報は軍部でしか共有されていない情報であり、戦場にいるエイティシックスたちは知らないものだ。

しかし共和国側の知らないところで実際にはレギオンはこの寿命を回避するために、より高性能な代替装置に死者の脳構造を選び、中枢処理装置として取り込む手段を得ていた。

それゆえに2年後にもレギオンは活動を停止することなく、エイティシックスたちはこの戦争に負けると確信している(戦えるエイティシックスたちが近い将来、確実に全滅してしまうため)。


こうして死者の脳構造を中枢処理装置として取り込んだ個体は「黒羊」と呼ばれており、物語の主役となるエイティシックスの戦闘員たちには、通信越しに死に際の思考を繰り返し続ける声が聞こえてくるのだ。

さらには生きたまま、あるいは死んで間もない人間の脳構造を回収された場合、より高度な指揮統率を行う「羊飼い」と呼ばれる個体も存在する。従来のレギオンよりも遥かに強力な指揮官機である。

ここでレギオンが調達している人間の脳構造はもちろん、戦場で死んでいったエイティシックスたちだ。つまり彼らは昨日まで共に戦場で戦っていた仲間の声が絶えず聞こえてくる敵たちと戦わされているのだ。

レギオンに脳構造を持っていかれることを防ぐために、作中では死にきれない味方の頭を敢えて撃ち抜くことで、レギオン側に使われることを阻止している描写まである。敵に利用されないためとはいえ、共に戦ってきた仲間に手を下さなければならないのだ。


繰り返しになるが、アニメ「86―エイティシックス―」とは電撃文庫より刊行されているライトノベルを原作とした、2021年春アニメである。


あまりにも過酷な世界を生きる人々と、現実を知った少女の物語の未来

これらのあまりにも重い世界観を持つこの作品は、正直言って八方塞がりと言わざるを得ない。

マブラヴオルタネイティヴのような絶望的な戦力差を前にして、鉄血のオルフェンズのような少年兵たちが、ボトムズに登場するアーマードトルーパーのような粗悪な機体に乗せられて、蒼穹のファフナーのように無造作に命を散らしている。戦わされているのはコードギアスのイレブンのような、人として差別をされている者たち。

しかも勝ったつもりの戦争をしているつもりで、実際は負けることが確実の未来。そんな世界でありながらも、最後まで戦い抜く少年少女たちの物語。そしてそんな彼らと、一人のハンドラーが出会う、これはそんな物語だ。


そのあまりの重すぎる作品を全部混ぜたといっても過言ではない内容に、ひらすらに胸が痛んだ。このような作品が現代のライトノベルとして刊行されている事実に驚くと同時に、強く惹かれた。

「86―エイティシックス―」は昨今のライトノベル原作アニメとしては異例なほどにヘビーな作品だ。正直言って、ライトノベル原作というだけで敬遠してしまっている方も結構多いのではないかと思う。

しかしここでしっかりと否定しておきたいのは、この作品が硬派なオリジナルアニメと同じかそれ以上にしっかりとした下地と緻密な描写によって描かれたハードな作品であるということだ。

このような作品が現在のライトノベルとして刊行されていること、そしてアニメ化されてることを非常に嬉しく思う。


原作第一巻の内容にあたるという今アニメは全11話の間に、ひたすらに丁寧な描写でその世界観を見せつけてくる。同じ時間軸の内容を、共和国内側の目線と戦場目線で描き、その価値観や住む世界の違いを露呈させる。

そして終わりをわかっていながら、どうすることも出来ずに淡々と進んでいく物語。最前線で必死に生きる人々の想いをこれでもかと見せつけ、そして一瞬にして散っていく。


元より重たい作品が好きな人間なのだが、いつだって求めることはひとつ。この物語が一体どこへ向かって、どのようにして終わるのか。

ただバッドエンドを見せつけるためではなく、精一杯生きたその先に未来があることを信じて、足掻き続ける。これはきっとそんな物語であると信じたい。


そしてこれが一番大切なことなのだが、今年10月からこのアニメは第2クールの放送が開始される。「86―エイティシックス―」第1クールはアマプラ、ネトフリ、バンチャといった主要な配信サービスで視聴することができる。

この記事を読んで興味を持った人はぜひ、放送開始前に第1クールを視聴して、どうかリアルタイム視聴に備えて欲しい。

そしてこの物語が一体どこへ行き着くのか、ぜひ見届けて欲しい。


※アニメ公式サイトはすでに第1クール視聴済み前提のネタバレが数多くあるので、閲覧はくれぐれも注意してください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?