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アニメ映画「花の詩女 ゴティックメード」を10年越しに鑑賞してきた話

※以下、映画の内容に関する軽いネタバレがあります。ご注意ください。

「ファイブスター物語」という作品をご存知だろうか。
「FSS(ファイブ・スター・ストーリーズ)」と略されることも多いこの作品は、「重戦機エルガイム」を代表とするメカデザイナー永野護氏が手がける漫画作品だ。

1986年の連載開始から今もなお継続して制作し続けられている作品であり、とある架空の星団を舞台にした、数千年にわたる壮大な物語を描く作品である。

その独自のSF設定や、個性あるメカデザインは現在もなお多くのファンを惹きつけてやまない。ちなみにボク個人は「重戦機エルガイム」が大好きであり、永野氏のメカデザインを非常に美しいと感じる一人である。

なぜ「ファイブスター物語」の紹介から始まったのかというと、今回話題の中心である「花の詩女 ゴティックメード」は「ファイブスター物語」と世界観を共有する、いわば関連作であるからだ。

映画が公開されたのは2012年と10年以上も前になるが、原作者の意向により円盤化されていない。よって、本作は今もなお映画館でしか視聴することができないのだ。

公開当時はまだ幼く、地方暮らしというのもあって興味はあったものの、観に行くことができなかった。そんな本作がちょうど今月の頭に復活上映されるということで、せっかくの機会なので観に行ってきた。

10年越しとなる、念願の初ゴティックメードとなったのだ。

前述した内容から、勘のいい方はお気づきかもしれないが、この作品群は設定がとにかく重厚で、それでいて作品を追いかけるにはそれ相応の覚悟が要る。長い連載期間の中で、映画ゴティックメードの制作にあわせ大幅な設定改変もおこなわれたこともあった。

ゴティックメードの上映時間は70分。アニメ映画としては、やや短い部類になるだろう。正直言ってその時間内に作品の魅力を描写し尽くすのは難しいのではないか、そもそも映画単体でFSSの魅力を引き出すことができるのかどうかという疑念があった。

しかし結果として、それらはすべて杞憂であったと書き残しておきたい。

結論から言って、劇場に足を運び、観に行って本当に良かったと心の底から思える作品だった。

感想として真っ先に評価しておきたいのは、このゴティックメードという映画のすごいところとして、これだけ重厚な世界観設定の下地がありながら、それらの予備知識は一切不要で、その世界へ難なく没入することができたという点だ。

これはひとえに映画のプロットの完成度の高さに起因しているのではないかと思っている。あくまでも主役2人のボーイミーツガールの物語を主軸に据え、そこから必要な情報を必要最低限お出ししていくのがあまりにも洗礼されていたように感じた。

世界観の説明も、本来すべてを語ろうとすればそれだけで大量の時間を必要としてしまうところを、察することができる部分はキャラクターたちの会話によって自然と受け入れることができ、より深い事前知識が必要な部分に関しては適量のナレーションが入ることにより、ゴティックメードという作品を視聴するにあたって必要な情報をすんなりと受け取ることができたのだ。

さらに印象深かったのは、キャラクターの表情がとにかく豊かだった点だ。喜怒哀楽といった表情は当然ながら、眉ひとつ動かす描写でさえ徹底してこだわり抜かれたであろう映像によって、言葉がなくとも表情でそのキャラクターの感情を理解することができた。

キャラクターへの理解が素早いということは、物語への理解も深まる速度が早くなるということで、それだけ短い上映時間の中で作品の世界観へと視聴者が溶け込みやすくなっているということだ。

そして何より、キャラクターの感情表現を中心において物語を進めることで、この作品はロボットアニメに区分されながら、非常にわかりやすい作品に仕上がっている。これははっきりいってものすごい驚きだった。

ロボットアニメはどうしても独自の設定や、ロボットが登場するにあたって必要となる前提知識が増えてしまう傾向にある。戦闘描写に重きをおいた結果、物語がおざなりになってしまい迷走してしまう作品も決して珍しくはない。

しかしゴティックメードという映画が特異なのは、ロボットアニメであることを最初から全面的に押し出した上で、あくまでも作中で描いたのは登場人物たちの物語だったという点だ。戦闘シーン自体は、全体の一割程度に過ぎなかったのではないだろうか。

しかしそれでも不満はなく、むしろその配分も含めたうえで良かったと感じさせるだけの満足度が、この映画には詰まっている。それほどまでに物語に引き込まれたというべきだろう。

偶然の出会いを果たした2人の男女の、短い期間の物語。それは2人の運命を大きく変えるほどの出会いで、そしてその出会いはやがて国を、惑星を変えるほどの出会いだ。

ゴティックメードでは世界に翻弄されながらも確かな意思を持った主人公たちの生き様をときに儚く、ときに力強く描写している。その物語は美しかったというのが、何より印象強く胸に残った感想だ。

そしてスタッフロールが流れると「花の詩女 ゴティックメード」という物語は終わり、「ファイブスター物語」という歴史へと繋がっていく。この映画は歴史の始まりの物語であると、ここからFSSが始まっていくのだとシリーズファンへのサービスシーンも素晴らしいの一言に尽きた。

元々このタイプの人物像が好きなタイプだったのもあるが、トリハロンという人物があまりにも気に入りすぎてしばらくずっと考えてしまうくらいには没入した。はっきりいって好き過ぎる。

ここからFSSへの沼に沈んでいくユーザーもいるのだろうということに納得しつつも、人生において後悔のひとつだったゴティックメードを劇場で観るという実績をようやく解除できたことに、今はとても満足している。

同時にFSSという壮大なサーガに惹かれつつも、手を付けてしまったらいよいよ引き返せなくなってしまうのではないかと、頭を抱えている。

ところでボークスさん、再上映を記念して「ABSOMEC GTMカイゼリン」を再販するのは、さすがに効きますので勘弁してください。あまりにもかっこよすぎて、欲しくなってしまいます。


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