第6話 『少女の物語の開幕〜勇者の幼馴染は小説家になりたい〜』

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今回より文字数が増えます。いつも読んでくださりありがとうございます。

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「なんだか色々ありましたが結果的には良かったですね」

「絶対墨入れられるだろうって覚悟してたのにな♡…それにしても俺たちの足止めで助かったってどういうことだ♡?」

「ああ……たしかに……そう……言っていたな……最初らへんに……」

「俺はもう疲れた…とりあえずなんか食おうぜ」

「デイビッドお前が1番絡まれてたもんな!」

「(笑)」

街に降り立ったシャーロット、メリル、ティオ、デイビッド、ロビー、スウェンの6人。
1番シオドア中佐に賛美され続けたデイビッドは、顔がげっそりとして疲れの溜まった顔だ。自首するその精神性がいい、お前も兵にならないかと熱心に誘われたが断った。

♢

街を抜けて、広場に出るとふいに立ち止まったシャーロット。

「わたし、この街に来たことないんです。子供の頃はあまり力の制御が出来なかったので、人の多く集まるところには行かない方が良いと言われていました」

空と建築物の色がシャーロットの瞳に映っている。薄い氷が張ったような水色の瞳だ。熱い期待に満ち溢れており、今からの生活に心底ワクワクとしているのが分かる。
栗色の髪が揺れ、感動しきった顔で皆の方を向いた。

「すごいです。人って、こんなもの作れるんですね。わたしが読む本って、挿絵がないから、高くて大きな家ってどれくらいだろうってずっと不思議だったんです。…こんなに壮大なんですね」

シャーロットの発言に顔を見合せた5人。メリルがニヤッと笑って、シャーロットにウインクする。


「王都ほどでは無いけど立派な商業都市なんだ♡シャーロットちゃんが食べた事の無いものだっていっぱいあるかもしれないな♡」

「じゃああそこがいいだろ!山猫亭!」

「いやいや…この街と言えば…屋台だろ…」

「それはティオが酒好きだからだろ。そういや、シャーロットは酒飲めるか?」

「幼少期に1度だけ飲んだんですが、記憶が無くって…いつも庇ってくれる人達も、みんな、お酒は飲むなと言ってきたことがあります」

「……やばい感じしかしないぞ♡でもまあ試す時は呼んでくれ♡止める……のは無理な気がするけどな♡」

「じゃあどこか人に迷惑かけないような所で、再チャレンジしようと思います!」

「……酒のつまみがあれば……暴れないかもしれないな」

「珍しくじょうせつに話してんなティオ!」

「饒舌(じょうぜつ)だろ、カッコつけて難しい言葉使わない方がいいと思うぞ3歳児ロビーちゃん♡……あとティオは酒関連に信頼置きすぎだ、休肝日作れ♡」

「は?いやじょうせつだろ!前にティオが言ってたからな!」

「それ……俺が……酔っ払ってて……呂律回ってない時の言葉だろ……参考にするな……あと……つまみに関しては美味いと…諍いが収まることがあるからな」

結局その日の夕食に関しては、じゃんけんでロビーの言っていた山猫亭となった。

♢

「ここはな、見たことねえ食べ物が沢山あるんだぞ!」

「シャーロットちゃん、“カレー”って食べたことあるか♡?」

「かれー?無いです」

「シャーロット、ここはホットケーキが美味しくてな」

「デザートは……食後にしておけ……デイビッド」

「楽しみです!」

「(コロッケ)」

「コロッケ……?」

「シャーロットちゃんがスウェンの無言言葉を読み解き始めた…♡!」

山猫亭。猫の看板だけがぶら下がっており、少し街の中心からは離れたところにあった。
そのせいか、まだあまり知られていないため穴場なのだとロビーはニタリと笑った。

ロビー曰く、山猫亭でしか食べたことがないものが沢山あるとのことで、シャーロットはワクワクして店内に入った。

あまり手の込んでいない外側とは裏腹に、店内は綺麗で清潔感があった。ただ、シャーロットたちの他に客はいないため広々としていると感じる。
カレーとコロッケ、他にもテンプラだとかスシだとかラーメンなどという、聞いたことがない料理が運ばれてくる。
シャーロットのために、沢山の料理を頼んでシェアしようということになったのだ。

「お客様、当店をご利用頂くのは初めてですか?」

「そうです」

高級そうな服に身を包んだ青年が来て、シャーロットに問いかける。後ろでは、給仕の綺麗なお姉さんが、にこにことお盆を持ちながら手を振ってきた。
どこかの貴族がお忍びでやっているお店なのか──とシャーロットは推測した。

「まだここに店を構えてから日が浅く、あまりお客様が来ないんですよ。だから、次からも来て欲しいと初回のお客様にはサービスをしておりまして」

「サービス?」

「こんなものが食べたい、という夢を叶えているのです」

「夢……」

テンプラという、弾力のあるエビをふわふわに揚げたものを頬張りながらシャーロットは考える。
ちなみにテンプラはとても美味しかった。
それと同時にあまりに油を使いながら揚げるので、お値段が怖くなってきたところである。
それを察したロビーが、ここはツケに出来るんだぜ!と安心させるように言った。
そういえばシャーロットは物々交換の村にいたためお金というものを持っておらず、また5人もお金が無いから盗賊になったのだと思いだした。
が、ツケに出来るならそれでいいかとコロッケを食べた。とても美味しい。

わりとシャーロットは後先考えてないことがある。ヤバイ事態になったとしても、力でどうにかなるという確信が地盤となっているからである。

「俺たちは初めて来た時、大物を狩った後だったからな♡色んな種類の肉料理!豪勢に!って言ったらほとんど全部食べたことないやつでな♡ビックリしたぞ♡全部美味かったけどな♡」

「なるほど…」

うーん…と唸ったあとに、少し照れた顔でシャーロットは言う。

「『セクラトラ街道物語』の氷菓って作れますか?」

「せくらとら……?すみません、どういうものなのか教えていただいても?」

「『冷たくて甘い溶けるものがたっぷりと器に入っている。たくさんの果物が乗っていて、カカオという実と砂糖を混ぜたものを、ソースにして掛けてある。あれほど奇妙で美味なものを食べたことない』っていうので……えっと、挿絵が無かったので、どういう見た目なのかは分からないです」

「パフェか!」

「ぱふぇ……?」

「すみませんね、お客様。この方驚くと叫びがちで…腕は確かなので、待っていてくださいね」

ブツブツと何かを呟きながら、店の奥へと青年は入っていく。本、俺以外、てんせ……としかシャーロットは聞き取れなかった。
給仕の女性が、申し訳なさそうに、でも少し誇らしげに、腕は確かだからと笑った。その人はビックリするほどに美人で、真っ白な肌と真っ黒な目が、息を飲むほど美麗なアンバランスさを生んでいた。

♢

頼んだ料理を全て食べ終わって、デイビッドの言っていたホットケーキというデザートはまた今度食べることにして、一息ついた頃にオーダーした『セクラトラ街道物語の氷菓』が運ばれてくる。

「うわぁ…!!」

透明な器には色とりどりの層が。器から飛び出したところには丸い何かが。さらにそれにイチゴやベリーやバナナが乗っている。全体的に茶色のソースがかかっている。確かにとても奇抜で、キラキラとしていて宝石みたいで、とても沢山だ。

「お客様、こちらのスプーンを使ってくださいね」

綺麗な給仕の人に手渡されたスプーンを、目の前の白色の丸いものにおそるおそる近づけてみた。
すっ、とそれは思っていたよりもやわらかい。氷菓は凍っているのだから硬いのだろうと思っていたが、それは間違いだったらしい。
そのまま掬って一口。

「おいしい…!」

すうっと口の中で消えていった、冷たくて甘くて美味しいもの。びっくりした顔のシャーロットに、店主の青年は嬉しそうだ。

「そちらはバニラアイスですね。こちらの茶色のソースがチョコレートです。果物はイチゴ、ラズベリー、ブルーベリー、バナナとなっております」

「シャーロットちゃん、ちょっとちょーだい♡」

「はい!たくさんありますし、みんなで食べましょう」

シャーロットがテーブルの真ん中にパフェを置いて、全員で食べ始めた。給仕のお姉さんに手渡されたスプーンを、一斉にパフェへと向ける。

「めっちゃ冷て!うっま!」

「(ラズベリー)」

「シャーロットちゃん、この下の方にあるゼリー美味しいぞ♡」

「シャーロット、こっちのイチゴアイスも食べてみろ。美味い」

「俺は……この……ムースが……好きだ」

「美味しいです!」

パフェを食べおわり、シャーロットは大満足である。今まで食べたことがなく、かつ本にも載っていないものを沢山食べることが出来たのだ。
手元のメモに書いているのを、メリルがお酒を飲みながら覗き込んでいる。シャーロットはお酒は遠慮した。こんな素晴らしい店を崩壊させた日には罪悪感で泣いてしまう。

「ティオ、お酒強いんですか?」

「そうだな……二日酔いというものには……なったことがない……呂律が回らなくなることはあるけどな……ここのお酒は丁寧に造られていると感じさせるお酒で……とても美味いぞ……俺のオススメはこの焼酎」

「シャーロット、お酒は低い度数から始めるべきだ。焼酎はやめとけ」

そういうデイビッドは、お酒は苦手だとオレンジジュースを飲んでいた。大熊のようなデイビッドがオレンジジュースで喜んでいるのは割と可愛いと思う。

「皆さん、仲が良いんですね」

酒のつまみとして燻製したチーズを持ってきた推定貴族の店長が、微笑ましいという顔でシャーロットたちを眺めた。

「近くにドラゴンが出たせいで、この街から冒険者がいなくなってしまいましてね。ロビーさんたちが再び来店してくださったと思ったら、幼女連れで。でも皆さん仲良さそうで安心したといいますか…犯罪関連かとちょっとヒヤヒヤしたっていうか」

「もう少し言葉を慎むべきです店長。お客様の前です」

「えっ、あっ、ごめんなさい……」

幼女と呼ばれたシャーロットは少し不服そうである。年齢に関して無頓着なシャーロットだが、さすがに幼女と呼ばれるのはあんまりである。年齢的にはもうお酒を飲んだって良いのだ。成人となる16だってすぐそこだ。

「お前ら飲みすぎるなよ。寝る場所探しに行かなきゃいけないんだからな」

「デイビッド、ロビーとメリルが飲み比べ始めてしまいましたよ」

「バカ2人め…」

オレンジジュースを飲んでいるデイビッド。オレンジジュースが美味しそうだったのでシャーロットも頼んでいる。
ちなみにオレンジジュース自体はシャーロットは飲んだことあるが、それは幼馴染のゼドのお兄さん達がどこからか買ってきたものを、手で握り潰して出てきた汁を飲むという、少し遠慮したいものであった。
シャーロットは1度力を込めすぎてオレンジの汁を四方八方に飛ばしたことがある。村のどこを歩いてもオレンジの匂いがしたその日から、シャーロットにその役目は与えられていない。少し不満である。

あの思い出のオレンジジュースと比べて、この店で飲むオレンジジュースは甘さからして違った。

「デイビッド、スウェンが寝てます」

「Zzz…」

「俺さすがに2人以上は運べないぞ…」

「わたし運べますよ!」

「そりゃいい。ロビー、メリル、潰れたらシャーロットが運んでくれるってよ」

「警備兵に目付けられてあの場所に逆戻りになるだろ♡!酔い覚めたから大丈夫だぞ、ありがとなシャーロットちゃん♡」

「うぷ……目覚めたんなら俺を運んでくれ、メリル…」

「ロビーここで吐くなよ♡」

帰ろうという雰囲気になったので、デイビッドはスウェンとティオを腕に抱え、メリルはロビーをおんぶした。
眠ってしまったスウェンとティオ、酔いが回りきっているロビー、少し足元がおぼつかないメリル。デイビッドは仕方ないか、と苦笑した。
シャーロットに出会えて、こいつらはテンション上がっちまったんだろうな───と笑いかけてくるデイビッドに、シャーロットは嬉しくなって微笑んだ。

「すみません、ツケで…」

「はい、了解しました。また食べに来てくださいね」

「もちろんです。美味しかったです、それでは」

すっかり暗くなった外へと、シャーロット達は歩き出た。


#創作大賞2023


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