見出し画像

京都嵐山で出会う、既知の感覚。 已己巳己(いこみき)

前触れもなく大きい風呂に浸かりたくなった。
紅葉も拝めたらより良いなと思った。
足は、龍と目が合うあの土地に向かっていた。

嵯峨嵐山駅から坂道を下り、古書店の角を右に曲がる。
メンチカツを買い食いして歩くと、食べ終わる頃に賑やかな通りへ出る。
目の前に天龍寺。人力車が前を横切る。
艶やかな着物姿がちらつき、見頃目前の紅葉は控えめに映る。

天井で睨みを利かせる龍を想い足を運んだはずが、入口の達磨に引き寄せられ諸堂へ足が向いた。
昼過ぎの大方丈は陽の光に包まれ、敷かれた畳をゆっくり暖めていた。
畳の上を歩くのはこんなに気持ちのいいものだっただろうか。
曹源池庭園を囲む木々の色付きは溜息を誘い、着物が遠慮している。
赤一色に思えた紅葉は近くで見るとまだ緑を抱え、色付く最中の姿も愛おしい。
達磨の迫力、背筋が伸びる既知の感覚は何だったかとずっと考えていたが、今思い出した。
達磨の顔は、恐ろしかった中学の顧問によく似ている。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?